シリア軍、2023年における戦力の実態とは?

CMEPS-J Report No. 73

木戸 皓平

(2023年7月28日)

出所:SANA、2023年7月20日

はじめに

本レポートは、2023年現在のシリア軍の軍事力を概説することが目的である。米ウェブサイトの最新報告を参照しつつ、長きにわたる内戦を経てその国力を大きく減退させたシリアの軍事的側面に目を向け、2023年現在その軍隊の構成にどのような特徴がみられるかを明示することを目指す。

シリア内戦とシリア軍

「アラブの春」が自国に波及する2011年以前、中東随一の強い国家とされたシリアは、常備軍32万5,000人(陸軍約28万人、海軍約5,000人、空軍約4万人)のほか、予備役約35万人(陸軍33万4,000人、海軍4,000人、空軍1万人)から構成される強力な軍隊を有していた(青山 [2016])。

しかし、シリア軍は一般的に、「アラブの春」波及に続くシリア内戦(2012年~)によって顕著な衰退を見せたと目される。具体的にはPeker and Abu-Nasr[2012]が、わずか2012年の時点でシリア軍を離反した兵士の数が6万人に達していたと推計しているほか、シリア人権監視団(al-Marsad al-Suri lil-Huquq al-Insan [2020])は、2020年12月9日時点で同軍将兵から総計6万8,049人の戦死者が発生していたとの報告を行っている。

これらの数値は、いずれもシリア含む各国の政府の公式発表に基づいたデータではないために、その正確性に関しては一定の考慮を要する。とはいえ、2012年に勃発し、2018年に「膠着という終わり」(青山[2019])を迎えるまでの7年間にわたって継続したシリア内戦の激しい戦闘を通じて、シリアはおもには欧米諸国による制裁やシリア・ポンドの価値下落に起因する経済危機、ないしは物理的な実効支配地域の大幅な縮小を経験することで、その国力を大きく低下させた。さらに実際に、シリアは内戦を戦うなかで、自らの国体を維持するために「人民防衛諸組織」や「同盟部隊」に分類される新政権民兵(非政府主体)への依存度を高めることで、「国家による暴力の独占の破綻」を招いた事実が観測されていることから(青山[2017: 4-20])、シリア軍が擁する戦闘員の量的な減少について言及しているにすぎないこれらの報告が示す数値は、実態からそう大きく乖離していないことが想定される。

2023年現在のシリア軍

一方、世界各国の軍事力を細分化された複数の要素を通じて格付けすることを趣旨とする米国のウェブサイト「グローバル・ファイヤーパワー」が発表した最新版の統計(Global Firepower[2023])によると、シリア軍は2023年現在、中東の軍隊のなかでも8番目に強力な軍隊としてランク付けされている。またシリア軍は現在、世界の145の軍隊のうち第64位の戦力を有するとされており、アジアで26番目に強力な軍隊としてランク付けされている。

マンパワー

シリアの人口は約2,150万人と推定されており、これは人口に関して世界第60位の数値である。またそのうち約1,400万人が実動可能なマンパワーとして数えられる。

シリアでは約1,200万人が兵役の対象者となっており、毎年およそ60万4,000人があらたに徴兵対象年齢に達すると推定されている。

シリア軍の総兵力は15万人であり、そのうち10万人が常備軍、5万人が半軍事組織となっており、予備兵力は存在しない。

陸軍

シリア陸軍の装備には戦車、軍用車両、自走砲、牽引砲、多連装ロケット砲といった5種類の主要兵器が含まれる。

    • 戦車:シリアは2,616台の戦車を保有しており、戦車戦力としては世界9位の規模となる。
    • 軍用車両:シリアは計41,148台の多種多様な軍用車両を保有しており、これは世界22位の数である。
    • 自走砲:シリアは319門の自走砲を保有しており、これは世界20位の数である。
    • 牽引砲:シリアは3,225門の牽引砲を保有しており、これは世界6位の数である。
    • 多連装ロケット砲:シリアは669 基の多連装ロケット砲を保有しておりがあり、これは世界9位の数である。

空軍

シリア空軍は世界第27位にランク付けされており、以下の内訳となる全453機の機体を保有している。

    • 戦闘機:208機
    • 攻撃機:18機
    • 軍用輸送機:5機
    • 訓練機:67機
    • ヘリコプター:153機(うち攻撃ヘリコプター27機)

海軍

シリア軍は世界51位の規模の軍事艦隊を保有しており、これは33隻の巡視船と7隻の掃海艇を含む43の海軍ユニットで構成される。

国防費

シリア軍の国防費は20億米ドルと推定されており、90の航空基地と3つの大規模港のほか、道路や鉄道からなる巨大ネットワークを用いる物流支援部隊を保有している。

ロシア軍との合同軍事演習

2016年9月以降、ラタキア県のフマイミーム航空基地にシリア駐留部隊の司令部を設置し、シリア軍とイスラーム国やシャームの民のヌスラ戦線(現シャーム解放機構)を含む反体制派に対する「テロとの戦い」を行ってきたロシア軍とは、これまでにも頻繁に合同軍事演習を行っている。

もっとも最近では、シリア軍は2023年7月から自国領内でロシア軍との共同演習に参加しており、これは同月5日から6日間にわたって継続された。アレッポ県北部で実施されたこの演習では、敵の航空攻撃を撃退することを目的とした、航空部隊の共同運用、あるいは電子戦部隊の協力のもとでの防空手段に関連する問題が扱われた。

シリア軍はまた、同月20日から数日間の日程で、ヒムス県で砂漠地帯や山岳地帯での戦闘を想定した実弾戦術訓練を実施、これにはロシア軍も参加したとされている(シリア・アラブの春顛末記[2023])。

おわりに

以上グローバル・ファイヤーパワーによる最新報告を参照し、2023年のシリア軍の戦力を概観した。

何よりもまず注目すべきは、2011年時点で32万5000人存在したとされる常備軍の兵力が15万人にまで減少し、さらに当時35万人存在したとされる予備役が完全に解体されたことがみてとれる点である。これは常備軍の兵力に視点を限ったとしても、主には戦死ないしは離反によって、2011年から現在にいたるまでに生じた欠員が17万人以上に及んでいることを意味しており、したがってシリア人権監視団を筆頭とする在外観測者による推計値が実態と大きく乖離していないことをあらためて裏付ける結果となっている。

一方、このようにシリア軍が兵力という観点からその規模を縮小させたと考えられるなかで、同軍がいくつかの評価要素において非常に高い数値を示していることにも注目すべきである。たとえば、シリア軍は現在2,616台の戦車(世界9位)と3,225門の牽引砲(世界6位)を保有しており、この数値は同軍と同じく陸軍を主軸とし、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のなかで第2位の地上兵力を擁するトルコ軍に対する評価を上回っている。空軍に関しても同様であり、シリアは208機の戦闘機(世界14位)を保有するとされるが、これはともに地域大国であるトルコ(世界15位)とイラン(世界16位)を上回る数値である。

以上を含むさまざまな要素を複合し、最終的には総合軍事力で世界第64位にランク付けされているシリア軍であるが、その実態は最大の同盟国であるロシアとの軍事協力のもとでさらに変化していくことが予想される。むろんこの傾向は開戦後1年以上が経過した現在であっても停戦の兆しが見えないロシア・ウクライナ戦争(特別軍事作戦)の趨勢に応じて進退することが予想され、シリアを取り巻く政治的環境の目まぐるしい変化とともに、同国が域内で果たすハード・パワーを測る指標としての、軍事力の推移を引き続き注視していく必要があるだろう。

参考文献