シリア・アラブ共和国1973年憲法(全訳)

CMEPS-J Report No. 94(2025年3月23日作成)

木戸 皓平

本稿は、ハーフィズ・アサド大統領が1973年3月13日に憲法(1973年憲法)の全訳である。底本には、1980年、1991年、2000年に行われた計3度の改正がすべて反映されている。なお巻末には、これらの改正点を改正日付および法令番号とともに掲載した。

シリア・アラブ共和国1973年憲法

前文

アラブ民族は、統一された民族であった時代に、人類文明の建設において偉大な役割を果たした。だが民族としての結束が弱まると、その文明的役割は後退し、植民地主義の侵略によりアラブ民族の統一は引き裂かれ、その土地は占領され、その資源は略奪された。我々アラブ民族はこれらの挑戦に耐え抜き、分断、搾取、後進性という現実を拒否した。これは、この現実を乗り越え、他の解放された諸民族とともに、文明と進歩の建設において独自の役割を再び歴史の舞台で果たせるという信念に基づくものである。20世紀の前半が終わりを迎えつつある頃、アラブ諸国民の闘争が拡大し、直接的な植民地主義からの解放を達成するために、ますます重要なものとなった。

アラブ人民は、独立を目標や犠牲の終点としてではなく、闘争を強化する手段として、また帝国主義、シオニズム、搾取勢力に対する継続的な戦いにおける先進的な段階としてとらえ、統一、自由、社会主義というアラブ民族の目標を達成するため、愛国的で進歩的な勢力の指導の下で戦ってきた。

シリア・アラブ地域においても、独立後も我々人民は闘争を継続した。彼らは1963年3月8日、アラブ社会主義バアス党の指導の下で革命を起こし、大きな勝利を収めた。同党は権力を統一されたアラブ社会主義社会の建設のための闘争の道具として用いた。

アラブ社会主義バアス党は、アラブ祖国においてアラブ統一に真の革命的意味を与え、民族主義的闘争を社会主義的闘争と結びつけ、アラブ民族の意思と、栄光の過去と結びついた未来への願望を体現した最初の運動である。

1970年11月16日の矯正運動は、党の闘争を通じて我々人民の要求と願望に応え、党の精神、原則、目的を忠実に反映した重要な質的進展となった。この運動は、我々人民の利益のため、多くの重要な計画を実行するための適切な雰囲気を生み出した。その中でも特に、アラブ意識の中で重要な位置を占める統一の呼びかけに応じ、アラブ共和国連邦国家の誕生を実現した。それは、帝国主義、シオニズム、地域主義、分離主義運動に対する共同のアラブ的闘争によって支えられ、支配と搾取に対する現代型のアラブ革命によって確認されたものである。

矯正運動の庇護のもと、我々人民の国家的統一を強化する道筋において重要な一歩が踏み出された。アラブ社会主義バアス党の指導下で、我々人民の需要と利益に資するよう、またアラブ革命の道具を一つの統一された政治組織にまとめるため、発展した形態を持つ民族的かつ進歩的な戦線が生まれた。

本憲法の制定は、人民民主主義の原則に基づく我々人民の闘争を戴冠するものであり、人民の未来への歩みを導き、国家およびその諸機関の動きを規律し、その立法の源泉となる明確な指針である。

この憲法は以下の主要原則に基づいている:

    1. 包括的なアラブ革命は、統一、自由、社会主義というアラブ民族の願望を実現するために現在も継続的に必要である。シリア・アラブ地域の革命は包括的なアラブ革命の一部であり、その政策はアラブ革命の全体的戦略から生じる。
    1. 分断の現実のもとでは、いかなるアラブ国家が達成した成果も完全には至らず、アラブ統一によって強化、維持されない限り歪曲や後退にさらされる。また、帝国主義やシオニズムからいずれかのアラブ国が受ける脅威は、アラブ民族全体を脅かすものである。
    1. 社会主義体制樹立への歩みは、アラブ社会の必要性から生じるだけでなく、シオニズムや帝国主義との闘争にアラブ人民の力を動員する基本的必要性でもある。
    1. 自由は神聖な権利であり、人民民主主義は国民が自由を享受し、経済的、社会的解放を通じてその自由を完成させるための理想的な形式である。
    1. アラブ革命運動は世界の解放運動の基本的部分であり、我々アラブ人民の闘争は自由、独立、進歩のための諸民族の闘争の一部である。

本憲法は、人民の闘争の立場を強化し、望ましい未来に向けて歩みを進めるための原則と規定を示し、人民が解放と建設の戦いを継続するための行動指針となる。

1部 基本原則

1章 政治的原則

第1条

    1. シリア・アラブ共和国は民主的、人民的、社会主義的であり、主権を有する国家である。その領土のいかなる部分も譲渡することは許されない。シリアはアラブ共和国連邦の一員である。
    2. シリア・アラブ地域はアラブ祖国の一部である。
    3. シリア・アラブ地域の人民はアラブ民族の一部であり、民族の包括的な統一を達成するために活動し闘争する。

第2条

    1. シリア・アラブ地域の政治体制は共和制である。
    2. 主権は人民に属し、本憲法の定めるところにより行使される。

第3条

    1. イスラームは共和国大統領の宗教である。
    2. イスラーム法は立法の主要な源泉である。

第4条

公用語はアラビア語である。

第5条

首都はダマスカスである。

第6条

法律は、国旗、国章、国歌およびそれぞれに関する規定を定める。(1980年3月29日付法律第2号によって改正

第7条

憲法宣誓は以下の通りである:「私は全能なるアッラーに対し、共和制の民主的かつ人民的な制度を誠実に守り、憲法および法律を尊重し、人民の利益および祖国の安全を守り、統一、自由、社会主義というアラブ民族の目標の実現のために誠実に活動し、闘争することを誓う」

第8条

アラブ社会主義バアス党は、社会および国家の指導的政党である。同党は、人民の力を統合し、アラブ民族の目標の実現に貢献するための愛国的かつ進歩的な戦線を指導する。

第9条

人民組織と協同組合は、社会の発展と組合員の利益のために働く人民の力を結集する組織である。

第10条

人民評議会は民主的に選出される組織であり、国民はそれを通じて国家の管理および社会の指導における権利を行使する。

第11条

軍隊およびその他の防衛組織は、祖国の領土防衛および革命の目標である統一、自由、社会主義の保護への責任を有する。

第12条

国家は人民に奉仕する。その諸機関は国民の基本的権利を保護し、国民生活を向上させることに努め、政治的組織が自立して発展することを支援する。

2章 経済的原則

第13条

国家の経済は計画社会主義経済であり、あらゆる形態の搾取を根絶することを目的とする。

地域の経済計画は、アラブ祖国における経済的統合の達成に資するものでなければならない。

第14条

法律は所有権を規定する。所有権には以下の3種類がある。

    1. 公有財産:天然資源、公共施設、国有化された施設および国家が設立した施設を含む。国家はこれらの財産を人民全体の利益のために管理、運営する義務を負い、国民はそれらを保護する義務を負う。
    1. 集団所有財産:人民組織、職業組織、生産単位、協同組合およびその他の社会的施設の所有財産である。法律はこれらの財産を保護し、支援する。
    1. 個人所有財産:個人が所有する財産である。法律は国家経済と開発計画の枠組み内におけるその社会的役割を定め、この財産は人民の利益に反する方法で使用されてはならない。

第15条

    1. 個人の所有権は、法律に基づいて、公共の利益のためにのみ公正な補償を条件に収用される。
    1. 財産の一般的没収は禁止される。
    1. 個別的没収は司法の決定によってのみ行われる。
    1. 法律に基づく個別的没収は、公正な補償を条件に許可される。

第16条

法律は、農民および農業労働者を搾取から保護し、生産の増加を保証する方法で農業所有の上限を定める。

第17条

相続権は法律に基づき保証される。

第18条

貯蓄は国家が保護、奨励、組織する国民的義務である。

第19条

税金は、平等と社会的公正の原則を実現する公正かつ累進的な基準に基づいて課される。

第20条

私的および共同の経済施設の運営は、社会的ニーズを満たし、国民所得を増加させ、人民の繁栄を実現することを目的とする。

3章 教育的、文化的原則

第21条

教育、文化制度は、アラブの歴史と領土につながり、その遺産に誇りを持ち、統一、自由、社会主義という国家の目標を達成し、人類の奉仕と進歩に貢献するために闘う精神を身につけた、アラブの民族主義的、社会主義的、科学的思考を持つ世代を生み出すことを目指す。

第22条

教育制度は、人民の絶え間ない進歩を保証し、人民の社会的、経済的、文化的ニーズの継続的な発展に適応するものでなければならない。

第23条

    1. 社会主義的民族主義の文化は、統一されたアラブ社会主義的社会を構築するための基礎であり、道徳的価値を強化し、アラブ民族の理想を実現し、社会を発展させ、人類の大義に奉仕することを目的としており、国家はこれを促進し、保護する。
    2. 芸術的才能や能力の奨励は社会の進歩と発展の基盤の一つであり、芸術創造は人民の生活と密接に結びついている。国家はすべての国民の芸術的才能や能力を育成する。
    3. スポーツ教育は社会建設の基盤である。国家は、身体的、精神的、道徳的に強い世代を育成するため、スポーツを奨励する。

第24条

    1. 科学、科学研究、あらゆる科学的成果は、アラブ社会主義的社会の進歩の基本要素である。国家はこれに包括的な支援を提供する。
    2. 国家は人民の利益に貢献する著作家および発明家の権利を保護する。

4章 自由、権利、義務の原則

第25条

    1. 自由は神聖な権利である。国家は国民の個人的自由を保護し、その尊厳と安全を保障する。
    2. 法の支配は社会および国家の基本原則である。
    3. 国民は法律の下で、権利および義務において平等である。
    4. 国家は国民の機会均等の原則を保障する。

第26条

すべて国民は、政治的、経済的、社会的、文化的生活に参加する権利を有する。これらの権利は法律により規定される。

第27条

国民は法律に従って自らの権利を行使し、自由を享受する。

第28条

    1. すべて被告人は、最終的な司法判断によって有罪判決が下されるまでは無罪である。
    2. 何人も、法律に基づく場合を除き、監視または拘束されない。
    3. 何人も、身体的または精神的に拷問または侮辱的な扱いを受けてはならない。このような行為に対する処罰は法律で定める。
    4. 訴訟権、防御権および司法での弁護権は法律により保護される。

第29条

犯罪と刑罰は法律によってのみ定められる。

第30条

法律の規定は、その施行日からのみ適用され、遡及効を持たない。ただし、刑事以外の事項については別途規定できる。

第31条

住居は不可侵である。法律に規定された場合を除き、立ち入りまたは捜索されない。

第32条

郵便および電信における通信の秘密は保障される。

第33条

    1. いかなる国民は祖国から追放されることはない。
    2. すべて国民は、司法の決定または公衆衛生および公共安全の法律に基づく場合を除き、国家の領土内を自由に移動する権利を有する。

第34条

政治的原則または自由の擁護を理由とした政治亡命者の引き渡しは禁止される。

第35条

    1. 信教の自由は保障される。国家はすべての宗教を尊重する。
    2. 国家は公共秩序を乱さない限り、あらゆる宗教儀式を行う自由を保障する。

第36条

    1. 労働はすべての国民の権利かつ義務であり、国家は全国民に労働を提供する。
    2. 国民は労働の性質と成果に応じた報酬を受ける権利を持ち、国家はこれを保障する。
    3. 国は労働時間数を決定し、労働者の社会保障を保証し、休息、休暇、報酬、賞与の権利を規制する。

第37条

教育は国家によって保障された権利であり、すべての段階において無償であり、初等教育は義務教育である。 国家は義務教育を他の段階にも拡大するよう努め、教育を社会と生産のニーズに結びつけるよう監督、指導する。

第38条

すべて国民は、言論、著作および他のあらゆる手段を通じて、自由かつ公然と意見を表明する権利を有する。また、国家的、民族的構造の健全性を保証し、社会主義体制を強化するための監督および建設的批判に参加する権利を有する。国家は法律に従い報道、印刷、出版の自由を保障する。

第39条

国民は憲法の原則の枠組みにおいて、平和的に集会およびデモを行う権利を有する。この権利の行使は法律によって規定される。

第40条

    1. すべて国民は祖国の安全を守り、その憲法と社会主義的統一体制を尊重するという神聖な義務を負う。
    2. 軍服務は義務であり、法律で規定される。

第41条

税金および公的負担の支払いは、法律に従った義務である。

第42条

国民の統一を守り、国家の機密を保護することは、すべての国民の義務である。

第43条

法律はシリア・アラブ共和国の市民権を規定し、在外居住のシリア・アラブ国民およびその子女、およびアラブ諸国の国民に特別な便宜を提供する。

第44条

    1. 家族は社会の基本的単位であり、国家の保護を受ける。
    2. 国家は結婚を保護、奨励し、結婚を妨げる物質的、社会的な障害を取り除く。また母親と子供を保護し、青少年の育成を支援し、その能力発展に適した条件を提供する。

第45条

国家は、女性が政治的、社会的、文化的、経済的生活に完全かつ効果的に参加するためのあらゆる機会を保障し、女性の発展および社会主義的アラブ社会の建設への参加を妨げる障害を取り除く。

第46条

    1. 国家は、緊急事態、疾病、障害、孤児、老齢の場合、すべての国民およびその家族を保障する。
    2. 国家は国民の健康を保護し、予防措置および治療、医療の手段を提供する。

第47条

国家は文化的、社会的および保健的サービスを保証し、特に農村部における水準を高めることに努めなければならない。

第48条

人民諸部門は、労働組合、社会的組織、職業的組織、生産協同組合またはサービス協同組合を設立する権利を有する。これらの組織の枠組み、相互関係、活動範囲は法律で規定される。

第49条

人民組織は法律に基づき、各部門および評議会において以下の事項を実現するために効果的に参加する。

    1. アラブ社会主義的社会の建設およびその体制の防衛。
    2. 社会主義経済の計画および指導。
    3. 労働条件、安全、健康、文化および組織員の生活に関連するあらゆる問題の改善。
    4. 科学的、技術的進歩の達成および生産手段の発展。
    5. 人民による政府機関に対する監督。

第2部 国家の権限

第1章 立法権

第50条

人民議会は、この憲法に規定された方法により立法権を行使する。

人民議会の議員は、選挙法の規定に従い、一般的、秘密的、直接的、平等的な投票により選出される。

第51条

人民議会の任期は最初の会合日から4年である。法律が規定する戦時を除き、これを延長することはできない。

第52条

人民議会議員は人民全体を代表する。その委任は制限や条件によって制約されることはなく、自らの名誉と良心に従って行使しなければならない。

第53条

選挙区および人民議会議員の定員は法律がこれを定める。ただし、議員の少なくとも半数は労働者および農民でなければならない。労働者および農民の定義は法律で定められる。

第54条

有権者は、18歳に達し、国民身分登録簿に登録され、選挙法に定められた条件を満たす国民である。

第54条

法律は選挙および国民投票の規定を設け、人民議会議員の資格要件を定める。

第56条

公務員および公共部門労働者を含む国家の労働者は、人民議会の議員候補となることができる。法律で定められた場合を除き、選出された議員は議会で活動するため職務から離れることができ、その期間は実務期間とみなされ、元の職務や職位は保証される。

第57条

選挙法は以下を保証する規定を含まなければならない。

    1. 有権者が代表者を自由に選出する自由および選挙の公正性。
    2. 候補者が投票を監視する権利。
    3. 有権者の意思を妨害する者への罰則。

第58条

人民議会の任期終了後は、90日以内に選挙を実施しなければならない。

新たな議会が選出されない場合、人民議会は法律に従って再招集され、90日経過後に再開され、新議会が選出されるまで継続する。

第59条

何らかの理由で議席に空席が生じた場合、議会の残任期間が6か月未満でない限り、空席発生から90日以内に選挙で後任議員が選出される。新たな議員の任期は議会の任期終了と同時に終了する。空席に関する条件は選挙法に定められる。

第60条

人民議会は選挙結果発表後15日以内に共和国大統領の布告により招集される。布告がない場合、法律に従い16日目に自動的に招集される。

議会は最初の会合で議長および事務局員を選出する。

第61条

人民議会は年に3回の通常会期で招集されるほか、臨時会期を招集されることもある。会期の日程および期間は議会の内部規則で定められ、臨時会期の招集は議長の決定、共和国大統領の書面要請または議会議員の3分の1の要求により行われる。

第62条

人民議会は、その議員の資格に異議があった場合、最高憲法裁判所の調査をもとに、議会が裁定を通知された日から1ヶ月以内に判断を下す。議員の資格は議会における多数決によってのみ無効とされる。

第63条

人民議会の議員は、その職務に就く前に、本憲法第7条に定める宣誓を議会の面前で公に行わなければならない。

第64条

議員の報酬および手当は法律で定められる。

第65条

人民議会は、職務の遂行方法を定めるための内部規則を制定する。

第66条

議員は、公開または秘密会議での投票や発言、委員会での活動に関し、刑事的または民事的責任を問われない。

第67条

人民議会の議員は、その任期中、免責特権を享受する。議会の議員に対しては、甚だしい犯罪である場合を除き、議会の事前の許可なしに、刑事訴追を行うことはできない。議会が閉会中の場合、議長の許可が必要であり、議会が再開した際には、その最初の会期で取られた措置について報告されなければならない。

第68条

    1. 人民議会の議員は、その地位を自己の利益のために濫用してはならない。
    2. 法律は人民議会議員との兼職が禁止される活動を定める。

第69条

    1. 人民議会議長は議会を代表し、その名において署名し、議会を代表して発言する。
    2. 議会には議長の命令に従う専属の警備隊がおり、議長の許可なしに他の武装勢力が議会に入ることはできない。

第70条

議会議員は、議会の内部規則に従って、法案の提案や内閣または大臣に対する質問や問い合わせを行う権利を有する。

第71条

人民議会は以下の権限を有する:

    1. 共和国大統領の指名。
    2. 法律の承認。
    3. 内閣の政策の審議。
    4. 一般予算および開発計画の承認。
    5. 国家の安全保障に関連する国際条約および協定の承認(具体的には、平和条約、同盟条約、主権に関連する条約、外国企業や施設に特権を付与する協定、予算外の財政負担を国家に課す条約、現行法に抵触する条約、新たな法整備が必要となる条約など)。
    6. 一般的恩赦の承認。
    7. 議員の辞職の受理または拒否。
    8. 省庁または大臣への信任の撤回。

第72条

不信任は、内閣または大臣に対する尋問が行われた後でなければ表明できない。不信任の提案は議会議員の5分の1以上によって提出されなければならず、内閣または大臣への不信任は議会議員の過半数の賛成によって成立する。内閣への不信任が成立した場合、首相は内閣の辞表を共和国大統領に提出しなければならない。不信任を受けた大臣は辞任しなければならない。

第73条

議会はその権限の行使に関連する事項について情報収集および事実調査を行うための臨時委員会を設置できる。

第74条

予算案は会計年度開始の少なくとも2ヶ月前に議会に提出されなければならない。予算は議会の承認なしには効力を持たない。

第75条

予算の採決は各節ごとに行われる。予算の作成方法は法律で定められる。

第76条

各会計年度には予算が一つあり、会計年度の開始日は法律で定められる。

第77条

議会が新年度の予算を承認しない場合、前年の予算が新たな予算の承認まで引き続き適用される。歳入は現行法に従い徴収される。

第78条

節をまたぐ予算の移動は法律の規定に従ってのみ許可される。

第79条

予算の審議において、議会は歳入および歳出の見積りを増加させることはできない。

第80条

予算が承認された後、議会は新たな支出およびその財源に関する法律を承認することができる。

第81条

税金の新設、変更または廃止は立法によってのみ行うことができる。

第82条

会計年度の決算は、その年度終了後2年以内に議会に提出されなければならない。決算の承認は法律によって行われる。決算には予算承認と同様の手続きが適用される。

第82条

会計年度の決算は、年度終了後2年以内に議会に提出されなければならない。決算の承認は法律で行われる。決算承認に適用される規定は、予算承認の規定と同じである。

第2章 行政権

第1節   共和国大統領

第83条

共和国大統領の候補者は、シリア・アラブ人であり、同国における市民権および政治的権利を有し、満34歳以上でなければならない(2000年6月11日付法律第9号によって改正)。

第84条

    1. 共和国大統領の候補者指名は、アラブ社会主義バアス党の地域指導部の提案に基づき人民議会が行い、候補者は国民投票にかけられる。
    2. 国民投票は議会議長の要請により実施される。
    3. 新たな大統領は現職大統領の任期終了前の1か月以上6か月以内に選出される(1991年7月3日付法律第18号によって改正)。
    4. 候補者は有権者の投票総数の絶対過半数を得ることによって共和国大統領となる。この過半数を得られない場合、議会は別の候補者を指名し、その指名および選出に関して同様の手続きを踏むものとするが、これは第1回国民投票の結果発表日から1ヶ月以内に行われるものとする。

第85条

共和国大統領の任期は7年であり、現職大統領の任期が終了する日から始まる。

第86条

共和国大統領が一時的な理由で職務遂行が不可能となった場合、副大統領が職務を代行する。

第87条

共和国大統領が辞任を希望する場合は、人民議会に辞表を提出する。

第88条

共和国大統領が職務を遂行できない場合、第一副大統領または大統領が指名した副大統領がその職務を代行する。職務遂行不能が恒久的、死亡または辞任の場合、第84条の規定に従って90日以内に新大統領の選挙のための国民投票が実施される。議会が解散しているか、任期終了までの期間が90日に満たない場合は、新議会が招集されるまで第一副大統領が共和国大統領の職務を代行する。

第89条

共和国大統領職が空位となり、副大統領がいない場合は、首相が90日以内に新たな大統領が国民投票で選出されるまで大統領の権限をすべて行使する。

第90条

大統領は職務に就く前に人民議会において第7条で規定された憲法宣誓を行う。

第91条

共和国大統領は、国家反逆罪の場合を除き、自らの職務の遂行に直接関わる行為について責任を問われない。大統領を同罪で告発するためには、人民議会議員の3分の1以上の提案および議会の特別非公開会議での議員の3分の2の賛成投票が必要であり、この裁判は最高憲法裁判所でのみ行われる。

第92条

共和国大統領の儀礼、特権および報酬は法律で規定される。

第93条

    1. 共和国大統領は憲法の遵守、公的権力の適切な運営および国家の維持を保証する。
    2. 共和国大統領は本憲法で定められた範囲内で人民を代表して行政権を行使する。

第94条

共和国大統領は内閣と協議し、国家の一般政策を定め、その実施を監督する。

第95条

共和国大統領は1人または複数の副大統領を任命し、職務の一部を委任することができる。また首相および副首相、各大臣とその副大臣を任命し、その辞任を受理し、解任することができる。

第96条

副大統領は職務を引き受ける前に、共和国大統領の前で第7条に規定された憲法宣誓を行う。

第97条

共和国大統領は自らの議長となる閣議を招集でき、大臣に報告を求めることもできる。

第98条

共和国大統領は人民議会で承認された法律を公布する。大統領は共和国大統領府で法律を受領した日から1ヶ月以内に、理由を付した決定により、これらの法律に対して異議を申し立てる権利を有する。人民議会がその構成員の3分の2以上の賛成により再度承認した場合、共和国大統領は法律を公布する。

第99条

共和国大統領は現行法に従い、命令、決定および布告を発する。

第100条

共和国大統領は人民議会の承認を得た後に戦争および総動員を宣言し、和平を締結する。

第101条

共和国大統領は、法律に定められた方法で非常事態を宣言し、終了させる。

第102条

共和国大統領は外国政府への外交使節団長を認証し、外国からの外交使節団長の認証を受け入れる。

第103条

共和国大統領は軍および治安部隊の最高司令官である。この権限を行使するためのあらゆる決定および命令を発し、権限の一部を委任することもできる。

第104条

共和国大統領は憲法の規定に基づき、国際条約および協定を批准および破棄する。

第105条

共和国大統領は恩赦および復権に関する決定を下すことができる。

第106条

共和国大統領は勲章を授与することができる。

第107条

    1. 共和国大統領は理由を示した決定により人民議会を解散できる。解散後90日以内に選挙を実施する。
    2. 同一の理由によって人民議会を2度以上解散することは許されない。

第108条

    1. 共和国大統領は人民議会に特別会期の開催を要請することができる。
    2. 共和国大統領は議会に書簡を送付し、議会に対して声明を発することができる。

第109条

共和国大統領は文官および軍官を任命し、その職務を法律に基づいて解任する。

第110条

共和国大統領は法律案を起草し、議会に承認を求めるため提出することができる。

第111条

    1. 人民議会が閉会中の場合、共和国大統領は立法権を行使することができる。ただし、大統領が制定した法律は、人民議会の次回会期冒頭で提出されなければならない。
    2. 共和国大統領は、国家の利益や安全保障上の緊急の必要性がある場合、人民議会が開会中であっても立法権を行使できる。ただし、その法律は人民議会の次回会期冒頭で提出されなければならない。
    3. 人民議会は、前2項で制定された法律を出席登録された議員の3分の2以上かつ議員総数の絶対多数の賛成により、廃止または修正することができる。
    4. 共和国大統領は、二つの議会の任期の間に立法権を行使することができる。この期間中に制定された法律は議会に提出されず、既存の法律と同様に修正または廃止されるまで有効である。

第112条

共和国大統領は、国家の最高利益に関わる重要な事項について国民投票を実施することができる。国民投票の結果は公布の日から拘束力を持ち、大統領が結果を公布する。

第113条

国家統一、国家の安全や独立を脅かす重大かつ差し迫った危険が生じたり、国家機関が憲法上の責務を遂行できない状況が発生した場合、共和国大統領は必要な緊急措置をとることができる。

第114条

共和国大統領は専門機関、評議会および委員会を設置することができ、それらの機関の権限および職務は設置の決定で規定される。

第2節    閣僚評議会

第115条

閣僚評議会は国家の最高行政機関であり、首相、副首相および各大臣から構成される。法律および規則の執行を監督し、国家の各機関および組織の活動を監視する。

首相は各大臣の活動を監督する。

首相、副首相、大臣および副大臣の報酬と手当は法律がこれを定める。

第116条

首相、副首相、大臣および副大臣は、新しい内閣の発足時に、第7条に規定された憲法宣誓を共和国大統領の前で行わなければならない。内閣改造時には新任大臣のみが宣誓を行う。

第117条

首相および各大臣は共和国大統領に対して責任を負う。

第118条

    1. 内閣は発足時に、一般政策および活動計画に関する声明を人民議会に提出する。
    2. 内閣は毎年、開発計画および生産の進捗状況に関する声明を人民議会に提出する。

第119条

大臣はその省庁の最高行政責任者であり、各省庁に関する国家の一般政策を執行する。

第120条

大臣は在職中、民間企業の役員、代理人としての活動、商業、工業取引または自由職を営むことを禁じられる。また大臣は在職中、直接、間接を問わず、省庁、国家機関、公共部門企業によって行われる事業、入札、競売に参入してはならない。

第121条

大臣の民事および刑事責任は法律で規定される。

第122条

共和国大統領の任期が満了した場合または永続的な理由で職務遂行が不可能となった場合、新大統領が新内閣を任命するまで、閣僚評議会は国家の行政を継続する。

第123条

共和国大統領は、大臣が在職中またはその職務に関連して犯した犯罪について、大臣を裁判に付すことができる。

第124条

訴追された大臣は、起訴決定が出された時点で職務停止となり、裁判所の判決が下されるまで継続する。辞職または解任は裁判を妨げない。

第125条

大臣職と人民議会議員職の兼務は許される。

第126条

副大臣には、大臣に適用される規定が準用される。

第127条

閣僚評議会は以下の権限を有する:

    1. 国家の一般政策の策定および実施に共和国大統領と協力する。
    2. 省庁および国家の公共機関の業務を指導、調整および監督する。
    3. 国家の一般予算案を作成する。
    4. 法律案を準備する。
    5. 開発計画を策定し、生産を発展させ、国家資源の活用および経済の強化、国民所得の向上を図る。
    6. 憲法の規定に基づき貸付契約を締結し、貸付を行う。
    7. 憲法の規定に基づき条約および協定を締結する。
    8. 法律の施行状況を監視し、国家の安全を維持し、国民の権利および国家の利益を保護する。
    9. 法律および規則に従い行政決定を発し、その実施を監督する。

第128条

首相および各大臣は、他の国家機関の権限と衝突しない範囲で、現行法に規定された職務を遂行する。

第3節 地方人民議会

第129条

    1. 地方人民議会は、法律に従って各行政単位において権限を行使する機関である。
    2. 行政単位は法律の規定に従って定義される。

第130条

地方人民議会の権限、その選挙方法、構成、議員の権利および義務、その他関連するすべての規定は法律で定められる。

第3章 司法権

第1節 裁判官および検察官

第131条

司法権は独立しており、共和国大統領は最高司法評議会の協力のもと、その独立性を保証する。

第132条

共和国大統領は最高司法評議会を主宰する。その構成方法、権限、運営手続きは法律で定める。

第133条

    1. 裁判官は独立しており、法律以外のいかなる権威にも服さない。
    2. 裁判官の名誉、良心、公平性は国民の権利と自由を保証する。

第134条

判決はシリア・アラブ国民の名において下される。

第135条

法律は、裁判所の制度、その種類、裁判官の等級を規定し、各裁判所の管轄を定める。

第136条

法律は裁判官の任命、昇進、転任、懲戒および罷免の条件を規定する。

第137条

検察庁は一つの司法機関であり、司法大臣がこれを統括する。その職務および権限は法律で規定される。

第138条

国務院は行政裁判権を行使する。裁判官の任命、昇進、懲戒、罷免の条件は法律で規定される。

第2節 最高憲法裁判所

第139条

最高憲法裁判所は5人の裁判官からなり、そのうち1人が裁判所長官となり、全員が共和国大統領によって任命される。

第140条

最高憲法裁判所のメンバーは、大臣職または人民議会議員との兼職は許されない。その他兼職禁止の職務は法律で定められる。

第141条

最高憲法裁判所の任期は4年で、更新可能とする。

第142条

最高憲法裁判所の裁判官は、法律の規定に基づく場合を除いて解任されることはない。

第143条

最高憲法裁判所の長官およびメンバーは、職務開始前に共和国大統領および人民議会議長の面前で以下の宣誓を行う。

「私は偉大なるアッラーの名において、国家の憲法および法律を尊重し、公正かつ誠実に職務を遂行することを誓う」。

第144条

最高憲法裁判所は、人民議会議員選挙の正当性に関する異議を審査し、その調査結果を議会に報告する。

第145条

最高憲法裁判所は、以下の規定に従って法律の合憲性を審査、決定する。

    1. 共和国大統領または人民議会議員の4分の1が、法律公布前に法律の合憲性に異議を唱えた場合、裁判所は異議申し立て日から15日以内に決定を下すまで、その公布を停止する。緊急性がある場合は、7日以内に決定しなければならない。
    2. 人民議会議員の4分の1が、人民議会会期開始日から15日以内に立法令の合憲性に異議を申し立てた場合、最高憲法裁判所は申し立てから15日以内に決定しなければならない。
    3. 最高憲法裁判所が法律または立法令を違憲と判断した場合、その憲法に反する部分は遡及的に無効となり、いかなる効果も発生しない。

第146条

最高憲法裁判所は、共和国大統領が国民投票にかけて国民に承認された法律を審査する権限を持たない。

第147条

最高憲法裁判所は、共和国大統領の要請に基づき、法律案、立法令の合憲性および命令案の適法性について意見を述べる。

第148条

最高憲法裁判所の管轄事項に関する審理および判決の手続きは法律で定める。また、その職員構成、裁判官の資格、給与、免責特権、権利および義務についても規定する。

第3部 憲法改正

第149条

    1. 共和国大統領は、また人民議会議員はその定員の3分の1の賛成をもって憲法改正を提案する権利を有する。
    2. 憲法改正案は、改正する条項とその理由を明記する。
    3. 改正案を受理した後、人民議会は特別委員会を設置して調査する。
    4. 人民議会は改正案を審議し、総議員の4分の3の多数で承認された場合、共和国大統領の承認を経て最終的なものとなり、憲法に組み込まれる。

第4部 一般規定及び経過規定

第150条

本憲法の序文は憲法の不可分の一部を構成する。

第151条

本憲法の発効日から18か月を経過するまでは、憲法改正を行うことはできない。

第152条

最高憲法裁判所が設置されるまで、破棄院総会は、人民議会議員の選挙の有効性に関する異議申し立てを審査する権限を有する。この審査は人民議会議長からの委託によって行われ、結果報告を議長に提出する。

第153条

本憲法の公布前に制定され施行されている法律は、本憲法の規定に適合するよう改正されるまで引き続き効力を有する。

第154条

現職の共和国大統領の任期は、シリア・アラブ共和国の大統領としての選挙結果が発表された日から起算して7年後に終了する。

第155条

本憲法のもとでの最初の人民議会の選挙は、本憲法が国民投票によって承認された日から90日以内に実施される。

第156条

共和国大統領は本憲法を官報に公布し、本憲法は国民投票で承認された日から発効する。

付録:改正履歴

1980年3月29日付(ヒジュラ暦1400年5月13日)法律第2号

シリア・アラブ共和国憲法第6条の改正

共和国大統領は、憲法の規定に基づき、また1400年4月29日付で開かれた人民議会の承認に基づき、以下を定める。

第1条

憲法第6条を以下のとおり改正する。

「法律は、国旗、国章、国歌およびそれぞれに関する規定を定める。」

第2条

本法律は官報で公布する。

1991年7月3日付(ヒジュラ暦1411年12月21日)法律第18号

 シリア・アラブ共和国憲法第84条第3項(新大統領の選出に関する規定)の改正

第1条

シリア・アラブ共和国憲法第84条第3項を以下の通り改正する。

「新たな大統領は現職大統領の任期終了前の1か月以上6か月以内に選出される。」

第2条

本法律は官報で公布する。

2000年6月11日付(ヒジュラ暦1421年3月9日)法律第9号

共和国大統領は、1421年ヒジュラ暦ジュマーダ・ウーラー月10日、2000年6月10日に開かれた人民議会の承認に基づき、憲法第83条を以下のように改正することを命じる。

第1条

シリア・アラブ共和国憲法第83条は以下のように改正される。

「共和国大統領の候補者は、シリア・アラブ人であり、同国における市民権および政治的権利を有し、満34歳以上でなければならない。」

第2条

本法律は官報で公布する。

(出所)1973年憲法の原文はSyriancc.comなどで閲覧可能。