米国・イスラエルとイランの軍事衝突:沈黙を貫く唯一の「抵抗の枢軸」、イエメンのフーシー派

al-Quds al-‘Arabi, March 14, 2026

CMEPS.J Report. No. 107(2026年3月18日)

大森 耀太

米国とイスラエルは2026年2月28日、イランに対して大規模な軍事作戦を開始し、イランのアリー・ハーメネイー師を殺害した。これを皮切りに、イランと米国・イスラエルの戦闘が勃発した。この戦闘では、イランはイスラエル本土や湾岸諸国にある米軍基地を攻撃するだけでなく、湾岸諸国のエネルギー関連施設への攻撃やホルムズ海峡の封鎖を行い、戦闘の領域を経済へ拡大している。さらに、イランの支援を受ける「抵抗の枢軸」であるレバノンのヒズブッラーや、イラクのイラク・イスラーム抵抗(あるいはイラク抵抗調整)は、イラクへの連帯を表明し、イスラエルやイラク国内の米国権益へ攻撃を仕掛けている(其山[2026]髙岡[2026])。

こうして戦域が拡大するなか、「抵抗の枢軸」の一派であるイエメンのフーシー派(アンサー・アッラー)は、本稿執筆時点において、いまだ戦闘に参加していない。

フーシー派が2023年10月に始まったいわゆるガザ紛争に際し、「支援戦線」(jabha al-isnād)と称して紅海を通過する船舶を積極的に攻撃してきたことを踏まえると、今回の対応は実に対照的に見える。以上を踏まえ、本稿は、フーシー派の公式声明を抜粋し、これを分析することで、同派が現下の戦闘への直接的な軍事介入を回避している要因を明らかにする。

フーシー派の声明における四つの共通点

米国とイスラエルが2026年2月28日にイランを攻撃して以降、フーシー派は複数回にわたって声明を出しているが、その数は、ヒズブッラーやイラク・イスラーム抵抗に比べて多くない。以下、フーシー派の指導者であるアブドゥルマリク・バドルッディーン・ハウスィーが、米国とイスラエルによる攻撃以降に出した声明を列挙し、各声明の内容を簡潔にまとめ、それらの内容にどのような共通点があるのか検討する。

2026年2月28日の声明

米国・イスラエルによるイラン・イスラーム共和国への凶悪な侵略は、シオニズムの企図の枠内の一環であり、イスラエル・シオニストという敵が地域を支配するのを可能にさせるためのものであり、さらには、「中東の再編」の名の下で彼らの既知の目的である「大イスラエル」を実現するためのものである…。
イスラーム世界全体は、ムスリムであるイラン人民及びイスラーム共和国と連帯するべきであり、あらゆる協力と連帯を通じて誠実かつ真剣にイスラーム共和国を支持し、この侵略を止めるために、あらゆる圧力手段を用いるべきである…。
我々の立場は、イラン・イスラーム共和国およびムスリム(イスラーム教徒)であるイラン人民の側に立ち、全面的に連帯するものである。また、我々はあらゆる必要な展開に備えている…。
イラン軍および革命防衛隊が地域の米軍基地を攻撃することは、イスラーム共和国にとって正当な権利であり、それらの基地が所在する国々への攻撃を意味するものではない…。
したがって、私は愛するムスリムの闘志であるイエメン人民に呼びかける。首都サナアにおいて、明日、広範かつ大規模な数百万人規模の大衆デモに参加することの重要性を強調する…。
これもまた、この戦いにおけるいかなる展開にも対応するための、我々の包括的かつ完全な準備の一環なのだ…(SABA[2026a])。

2026年3月1日の声明

…(ハーメネイー師の死亡に関して、追悼の意を表したうえで)イランの立場は断固としており揺るぎないものであり、その報復は強力かつ継続的である。イラン人民、抵抗の枢軸、ジハード主義者、そして世界の自由人は、解放の道と正義の立場を堅持し、この尊く偉大な犠牲に忠誠を誓い続ける。結末は義深き者たちの手にある…(SABA[2026b])。

2026年3月4日の声明

…一部のアラブ諸国の体制は、ムスリム共同体に対して侵略を行っている米軍基地に対し、保護及び政治的、軍事的、財政的、報道的な隠れ蓑を提供するために働いている。ムスリムであるイラン人民もムスリム共同体の一部であるにもかかわらず、これらの体制は、米軍基地に対する保護や財政支援を追求している。2000年以降、これら一部のアラブ諸国の体制は、米国や「イスラエル」に公然と忠誠を示し、シオニストの利益のために働くようになり、ムスリム共同体のすべての自由人に公然と敵対するようになった…。
多くのアラブ・メディアは犯罪者暴君の側に立ち、彼らの暴虐を正当化し、賞賛するのみならず、ムスリム共同体の人民に対して心理戦を行い、自衛権という正当な権利を犯罪視している…(SABA[2026c])。

2026年3月5日の声明

…我々イエメンにおける立場が、イラン・イスラーム共和国およびムスリムであるイラン人民の側にあることを強調する。そして、我々は様々な活動の中で動いており、軍事的エスカレーションおよび軍事行動に関しては、いついかなる時でも情勢がそれを要請するならば即応できる態勢にある。というのも、我々は、この戦いをムスリム共同体全体の戦いであると見なしているのだ…(SABA[2026d])。

2026年3月5日の声明

…(イエメン人民にイラン連帯デモへの参加を呼び掛けたうえで)軍事的エスカレーションおよび軍事的行動に関しては、いかなる瞬間においても、展開がそれを要請するならば、我々の手は引き金の上にある…(SABA[2026e])。

2026年3月9日の声明

…(モュジタバー・ハーメネイー師がイランの最高指導者の座に就いたことを祝福したうえで)我々は全能なるアッラーに対し、モジュタバー・ハーメネイー師に成功を授け、守護し、その援助によってイランのムスリム人民および革命防衛隊と勇敢な軍の尊きムジャーヒディーンたちを支援してくださるよう祈る…(SABA[2026f])。

2026年3月12日

親愛なる我らが人民に対し、明日「(世界)クドスの日」を記念したデモを行うよう呼び掛けたい…。百万人デモは我々のジハードの一環である…(SABA[2026g])。

2026年3月12日

…敵との国交正常化は、国の主権を敵に明け渡す降伏を意味する…。イラン・イスラーム共和国に対する米国とイスラエルの侵略は、一切正当化されない不当で残虐かつ犯罪的な侵略である…。ヒズブッラーは非難されるのではなく、支持され、支援されるべきである…。
米国はイラクにおいて、経済、政治、安全保障、軍事、その他すべてにおいて主権の侵害および収奪を行っている。そのため、ムジャーヒディーンたるイラク・イスラーム抵抗諸派が行っていることは、正当な権利であり、偉大な姿勢であり、賞賛および謝意に値する。
一方、イエメンにおける我々の立場に関して、我々は当初より、イラン・イスラーム共和国を狙う米国とシオニストの侵略は地域全域を狙ったものかつ、イスラームおよびムスリムに対する戦争だとみなしてきた。したがって、我々は、イラン・イスラーム共和国の側に立つべきだと考え、イスラームおよびムスリムの敵、ムスリム共同体の敵、そして我々全員の敵に対して同国と共に立ち向かうものと考える。これらの敵は、我々全体に対して侵略しているのだ…(SABA[2026h])。

これら一連の声明(抜粋)には、四つの共通点がある。第1に、イランへの連帯を表明している点である。フーシー派は、イランが攻撃を受けた2026年2月28日時点で「全面的な連帯」を表明している。第2に、湾岸諸国を念頭に、米軍と協力するアラブ諸国を敵視している点である。この姿勢は、イランが湾岸諸国のエネルギー関連施設などを攻撃対象にするようになった3月3日以降の声明で明確に示されている。第3に、フーシー派の参戦する準備ができていると一貫して述べている点である。そして、第4の共通点として、この戦闘を米国・イスラエルとムスリム世界の対決軸として捉えている点である。実際、この戦闘に際し、イスラーム世界全体がイランに対して連帯するべきだ」とも述べている。

分析:米国・イスラエルとムスリム世界という対決軸

以上四つの共通点のうち、第4の共通点である、戦闘を米国・イスラエルとムスリム世界の対立軸として捉えている点は、フーシー派が、イラン一国、あるいは「抵抗の枢軸」を米国とイスラエルに対峙する当事者と位置づけていない点で注目に値する。

ムスリム共同体とは包摂的な概念である。後藤[1987:77-91]によると、イスラーム教を信仰する者はすべて、この共同体の一員であるとされる。国や集団別でみると、イスラーム教を国教とする国には、イランやアラブ諸国だけでなく、東南アジアやアフリカの国々がも含まれ、その多くが、イラン、フーシー派を含む「抵抗の枢軸」を構成するシーア派ではなく、スンナ派を多数派としている。つまり、フーシー派は、同派、あるいは「抵抗の枢軸」のみで米国・イスラエルに対峙するイランを支援するのではなく、むしろより広範なムスリム主体の集団的関与を前提とするものと認識していると解釈できる。そのため、フーシー派はムスリム共同体全体、あるいはそれを構成する(「抵抗の枢軸」以外の)個人、組織、国家といった主体の参戦を、自らの参戦における前提条件として想定している可能性が高い。

換言するならば、フーシー派が参戦を躊躇う要因(あるいは口実)として、ムスリム共同体のなかに参戦するアクターが少ないことが指摘できる。実際、イランとともに戦っている主体は、ヒズブッラーとイラク・イスラーム抵抗以外、現時点では確認できていない。このような状況下で、フーシー派が参戦したところで、米国やイスラエルの強大な軍事力に勝ることができないことは、2025年の米国の爆撃によって同派が紅海での商船に対する攻撃を停止するに至ったことや、イスラエルの攻撃で同派の首相ら幹部複数人が死亡したことからも明らかである(Holland, Jarrett, Jaidaa, et.al[2025]Ghobari, Enas and Ahmed[2025])。

以上を踏まえると、フーシー派が直ちに参戦に踏み切らないのは、単独参戦、あるいは「抵抗の枢軸」だけの参戦が軍事的合理性を欠いているとの認識を背景に、ムスリム共同体からの広範な動員が実現するまで、戦略的に介入を留保しているためであると考えられる。

参考文献