シリアにおける越境(クロスボーダー)人道支援:人道性と政治性

CMEPS-J Report No. 79(2024年9月17日作成)

青山 弘之(東京外国語大学・教授)

*本稿は『国際情勢紀要』第94号(2014年3月、pp. 165-195)所収論文を再録したものです。

目次

1 はじめに
2 越境人道支援とは?
3 越境人道支援の期間延長
4 境界経由の人道支援
5 トルコ・シリア大地震がもたらした動き
6 失効と再開
7 おわりに

文献リスト


1 はじめに

シリア内戦が膠着状態に入って久しい。この状態は、シリア政府、反体制派[1]、クルド民族主義勢力[2]といった政治(あるいは軍事)主体による領土分断、そして米国(有志連合)、トルコ、イスラエルによる占領、さらにはロシア、「イランの民兵」[3]の駐留を特徴としている。「今世紀最悪の人道危機」と評された惨状が解消され、復興が軌道に乗る兆しは見えず、コロナ禍、そして2023年2月6日に発生したトルコ・シリア大地震によって事態は悪化しているようにすら感じられる。にもかかわらず、シリアにおける人道状況は改善せず、むしろ後退とでも言うべき動きが生じていた。国連による越境(クロスボーダー、cross-border)人道支援の終了である。

本論では、越境人道支援の終了がシリアの現状にどのような影響を与えたのかを考察する。


2 越境人道支援とは?

国連による越境人道支援は、シリア国内での戦闘が激化し、政府の支配が及ばない地域がトルコ、イラク、ヨルダンとの国境地帯に生じ、さまざまな勢力が跋扈するなかで提起され、2014年7月14日に採択された国連安保理決議第2165号(S/RES/2165 (2014))をもって実施が決定された。11ヵ国[4]が共同で提案し、全会一致で可決された同決議は、シリア政府の支配が及ばなくなった地域に対して、国連主導のもと、近隣諸国から人道支援物資を輸送することを定めたものだった(S/PV.7216)。国連であれ、国家であれ、あるいは支援団体であれ、人道支援をはじめとする物資の搬入は、受入国の承認、あるいは許可が要ることは言うまでもない。だが、この決議においては、国連がシリア政府の承認を得ずに物資を輸送することが認められた。シリア政府が国境を管理する能力を失っているというのが理由だった。だが、それはシリア政府の正統性を一方的に否定していた欧米諸国の意向に沿った仕組みでもあった。

国連安保理決議第2165号は、越境人道支援の実施期間を180日(2015年1月10日まで)とし、事務総長に、決議の実施とシリアのすべての当事者の遵守の状況にかかる報告書の提出を求めた。物資の輸送は、バーブ・ハワー国境通行所(イドリブ県――トルコ側はハタイ県のジルベギョズ国境通行所)、バーブ・サラーマ国境通行所(アレッポ県――トルコ側はキリス県のオンジュプナル国境通行所)、ヤアルビーヤ国境通行所(ハサカ県――イラク側はニーナワー県のラビーア国境通行所)、ダルアー国境通行所(ダルアー県――ヨルダン側はイルビド県のラムサー国境通行所)の4ヵ所を経由することが定められた。

地図1は、決議が採択された2014年7月当時のシリア国内の勢力図である。越境人道支援が認められた4ヵ所うち、バーブ・サラーマ国境通行所は2012年6月、バーブ・ハワー国境通行所は同年7月、ダルアー国境通行所は2013年10月に反体制派によって掌握されていた(Sky News ‘Arabīya[2012]、Zamān al-Waṣl[2012]、Sāsa Post[2015])。一方、ヤアルビーヤ国境通行所は、2013年3月にイスラーム国(同時の呼称はイラク・シャーム・イスラーム国)を含む反体制派が制圧、その後同年10月にクルド民族主義勢力がこれを奪取していた(al-‘Arabīya[2013]、‘Inab Baladī[2013a])。

地図1 2014年7月の勢力図

(出所)筆者作成。

これらの国境通行所以外にも、ジャラーブルス国境通行所(アレッポ県――トルコ側はガズィアンテップ県のカルカムシュ国境通行所)が2012年7月、タッル・アブヤド国境通行所(ラッカ県――トルコ側はシャンルウルファ県のアクチャカレ国境通行所)が同年9月、ブーカマール国境通行所(ダイル・ザウル県――イラク側はアンバール県のカーイム国境通行所が、同年11月に反体制派に制圧されていた(Sky News ‘Arabīya[2012]、Sāsa Post[2015]、al-Mayādīn[2012])。また、ラアス・アイン国境通行所(ハサカ県――トルコ側はシャンルウルファ県のジェイランプナル国境通行所)は、2012年末にシリア軍が撤退した後、クルド民族主義勢力が2013年7月に反体制派との激しい攻防戦の末に掌握した(Zamān al-Waṣl[2013])。だが、これらの国境通行所は越境人道支援の経路からは除外された。

なお、シリア政府はこの時期、タルトゥース国境通行所(タルトゥース県――レバノン側は北部県のアリーダ国境通行所)、ダブースィーヤ国境通行所(ヒムス県――レバノン側は北部県のアッブーディーヤ国境通行所)、タッルカラフ国境通行所(ヒムス県――レバノン側は北部県のワーディー・ハーリド国境通行所)、ジュースィーヤ国境通行所(ヒムス県――レバノン側はベカーア県のカーア国境通行所)、ジュダイダト・ヤーブース国境通行所(ダマスカス郊外県――レバノン側はベカーア県のマスナア国境通行所)、ナスィーブ国境通行所(ダルアー県――ヨルダン側はイルビド県のジャービル国境通行所)、タンフ国境通行所(ヒムス県――イラク側はアンバール県のワリード国境通行所)、カーミシュリー国境通行所(ハサカ県――イラク側はマルディン県のヌサイビーン国境通行所)、カサブ国境通行所(ラタキア県――トルコ側はハタイ県のヤイラダーウ国境通行所)を掌握していた。このうち、トルコ、ヨルダンとの間に位置する国境通行所は、これらの国とシリア政府の関係が悪化したために閉鎖され、使用されていたのは、タルトゥース国境通行所、ダブースィーヤ国境通行所、タッルカラフ国境通行所、ジュダイダト・ヤーブース通行所、タンフ国境通行所のみだった[5]


3 越境人道支援の期間延長

前節で述べた通り、越境人道支援は期限付きだった。だが、周知の通り、シリアの混乱や人道状況に改善が見られなかったため、10回にわたって期間の延長が行われた。

1回目

1回目の延長は2014年12月17日に採択された国連安保理決議第2191号(S/RES/2191 (2014))によって決定された。常任・非常任理事国15ヵ国[6]が共同で提案し、全会一致で可決された同決議では、越境人道支援の期間を2年延長し、2016年1月10日まで継続することが定められた(S/PV.7344)。

地図2は決議が採択された2014年12月の勢力図である。国連安保理決議第2165号が採択された同年7月以降の5ヵ月の間に四つの国境通行所の帰属に変化はなかった。だが、この地図からは、同年9月には、米主導の有志連合がシリア領内での爆撃を開始したにもかかわらず、イスラーム国が、シリア政府、反体制派、クルド民族主義勢力の支配地を奪い、大幅に勢力を拡大したことが確認できる。国境通行所に関して言うと、反体制派が掌握していたジャラーブルス国境通行所とタッル・アブヤド国境通行所が同年1月、ブーカマール国境通行所が7月にイスラーム国によって制圧された(Akhbār al-Ān[2014]、Sāsa Post[2015])[7]

地図2 2014年12月の勢力図

(出所)筆者作成。

2回目

2回目の延長は2016年12月21日に採択された国連安保理決議第2332号(S/RES/2332 (2016))によって決定された。エジプト、ニュージーランド、スペインが共同で提案し、全会一致[8]で採択された同決議では、越境人道支援の期間を再び2年延長し、2018年1月10日まで継続することが定められた(S/PV.7849)。

地図3は決議が採択された2016年12月の勢力図である。前回決議が採択された2014年12月以降の2年間に各国は軍事介入を強めていった。ロシアは2015年9月にイスラーム国を含む反体制派への爆撃を開始、イランとともにシリア軍への支援を強化、これによってシリア軍は2016年12月に反体制派の支配下にあったアレッポ市(アレッポ県)東部地区の解放に成功した。トルコは同年8月から2017年3月にかけてイスラーム国とクルド民族主義勢力を国境地帯から排除するとして「ユーフラテスの盾」作戦を実施、バーブ市、ジャラーブルス市、アアザーズ市(いずれもアレッポ県)一帯地域を占領下に置いた。「ユーフラテスの盾」地域と呼ばれるこの地域では、反体制派が活動を続けた。だが、その統治は実質的にはトルコが担うことになり、越境人道支援の経路に定められていたバーブ・サラーマ国境通行所の管理は、「ユーフラテスの盾」地域に組み込まれたジャラーブルス国境通行所と同じく、トルコの裁量下で行われるようになった。

地図3 2016年12月の勢力図

(出所)筆者作成。

一方、有志連合の支援を受けるクルド民族主義勢力は北東部を中心に支配地域を拡大、2015年6月にイスラーム国の支配下にあったタッル・アブヤド国境通行所を制圧した(Sputnik Arabic[2015])。イスラーム国は南部へと支配地を移動させ、同年3月にタンフ国境通行所を掌握していた。だが、新シリア軍を名乗る反体制武装組織が、ヨルダンから有志連合とともにシリア領内に進攻し、2016年3月にこれを制圧した。反体制派はまた、2015年4月にナスィーブ国境通行所を抑えるなど勢力を拡大、これによってシリア政府の支配地はさらに縮小した(青山[2022a])。

3回目

3回目の延長は、前回決議が定めた越境人道支援の期間が終了する約1年前の2017年12月19日に採択された国連安保理決議第2393号(S/RES/2393 (2017))によって決定された。エジプト、日本、スウェーデンが共同で提案した同決議は、ボスニア、中国、ロシアが棄権したものの、12ヵ国[9]の賛成で承認された。これにより、越境人道支援の期間を1年延長し、2019年1月10日まで継続することが定められた。棄権した3ヵ国はいずれも越境人道支援が特別な状況下でとられる特別な措置であるとして疑義を呈した(S/PV.8141)。

地図4は決議が採択された2017年12月の勢力図である。前回決議が採択された2016年12月以降の1年間に、イスラーム国の支配地が大幅に縮小する一方、クルド民族主義勢力は2017年10月にラッカ市を制圧、シリア軍は同年9月にダイル・ザウル市の解囲に成功するとともに、南東部の解放作戦を進め、11月にブーカマール国境通行所に到達、これを解放した(青山[2019])。

地図4 2017年12月の勢力図

(出所)筆者作成。

なお、この過程で、米国は、領空でのロシアとの偶発的衝突を回避するために2015年10月にロシアと交わした「非紛争地帯」(de-confliction zone)の設置にかかる合意に基づくとして、タンフ国境通行所一帯にシリア政府の支配が及ばない55キロ地帯を確保した[10]

4回目

4回目の延長は、前回決議が定めた越境人道支援の期間が終了する約1年前の2018年12月13日に採択された国連安保理決議第2449号(S/RES/2449 (2018))によって決定された。

スウェーデンとクウェートが共同で提案した同決議は、ロシアと中国が棄権したものの、13ヵ国[11]の賛成で承認された。これにより、越境人道支援の期間を1年延長し、2020年1月10日まで継続することが定められた。棄権したロシアは、ヨルダンとの国境地域がシリア政府の支配下に復帰し、安定化に向かって情勢が推移していることで、越境人道支援が時代錯誤となったと非難した。中国は、シリアに対する国際支援が中立、公平、非政治化の原則を厳密に守るべきと主張した(S/PV.8423)。

地図5 2018年12月の勢力図

(出所)筆者作成。

地図5は決議が採択された2018年12月の勢力図である。前回決議が採択された2017年12月以降の1年間に、ユーフラテス川西岸のイスラーム国の支配地は消失、その支配はイラクに近いユーフラテス川東岸のみとなった。また、ロシア軍とシリア軍の攻勢によって、北西部を除く反体制派の支配地は消失し、2018年7月にダルアー国境通行所、同年10月にナスィーブ国境通行所がシリア政府の支配下に復帰した(青山[2021])。一方、トルコは、ロシアとシリアの攻勢を黙認することの見返りとして、同年1月から3月に「オリーブの枝」作戦を実施、クルド民族主義勢力の支配下にあったアフリーン市(アレッポ県)一帯地域を手中に収めた。同地は「オリーブの枝」地域と呼ばれ、トルコの実質占領下に置かれた。

5回目

5回目の延長は、2020年1月11日に採択された国連安保理決議第2504号(S/RES/2504 (2020))によって決定された。だが、採択に至るまの経緯は困難を極めた。

安保理では2019年12月20日、シリア情勢への対応をめぐる会合が開催され、そこでは二つの決議案が提出され、審議された。

第1の決議案(S/2019/961)は、ドイツ、ベルギー、クウェートが共同で提案し、越境人道支援の期間を1年延長し、2021年1月10日まで継続するとともに、ダルアー国境通行所を越境人道支援の経路から除外することを求めた。採決では、13ヵ国[12]が賛成したが、ロシアと中国が拒否権を発動し、廃案となった。このうち、ロシアはシリア政府が同意しない人道支援搬入は認められないとして拒否権を発動した(S/PV.8697)。

第2の決議案(S/2019/962)は、ロシアが提出し、越境人道支援の期間を半年延長し、2020年7月10日まで継続するとともに、シリア政府の支配地拡大を考慮し、ダルアー国境通行所に加えてヤアルビーヤ国境通行所も越境人道支援の経路から除外することを求めた。採決では、ロシアや中国など5ヵ国が賛成、米英仏など6ヵ国が反対、4ヵ国が棄権し、廃案となった(S/PV.8697)[13]

二つの決議案の廃案を経て、2020年1月11日、ベルギーとドイツが第3の決議案を提出、11ヵ国[14]の賛成、ロシア、中国、英国、米国の4ヵ国の棄権で採択され、国連安保理決議第2504号となった。その内容は、ロシアが提出した第2の決議案に沿ったもので、越境人道支援の期間を半年延長し、同年7月10日まで継続することが定められる一方、ダルアー国境通行所とヤアルビーヤ国境通行所を越境人道支援の経路から除外することが定められた(S/RES/2504 (2020)、S/PV.8700)。

地図6は決議が採択された2020年1月の勢力図である。前回決議が採択された2017年12月以降の1年間に、イスラーム国の支配地は消滅した。また、トルコが2019年10月に「平和の泉」作戦を敢行し、タッル・アブヤド市(ラッカ県)、ラアス・アイン市(ハサカ県)一帯を手中に収めた。同地は「平和の泉」地域と呼ばれ、トルコの実質占領下に置かれ、タッル・アブヤド国交通行所とラアス・アイン国境通行所も同国の管理下に置かれた。また、ロシアとトルコが同年10月に交わした停戦合意では、国境地帯と、アレッポ県東部からヤアルビーヤ国境通行所に至るM4高速道路沿線をシリア政府の管理下に置き、シリア軍を展開させることなどが定められた。その結果、クルド民族主義勢力が実効支配していた北部一帯は、同勢力とシリア政府の共同統治(あるいは分割統治)下に置かれ、ヤアルビーヤ国境通行所はシリア政府が管理することになった(青山[2021])。

地図6 2020年1月の勢力図

(出所)筆者作成。

6回目

6回目の延長は、2020年7月11日に採択された国連安保理決議第2533号(S/RES/2533 (2020))によって決定された。だが、この延長手続きも、四つの決議案が否決されるという混乱を伴った。

第1の決議案(S/2020/654)は、2020年7月7日にドイツとベルギーが共同で提案し、越境人道支援の期間を1年延長し、2021年7月10日まで継続するとともに、バーブ・サラーマ国境通行所とバーブ・サラーマ国境通行所を維持することを求めていた。採決では、13ヵ国[15]が賛成したが、ロシアと中国が拒否権を行使し、廃案となった(S/2020/661)。

第2の決議案(S/2020/658)は2020年7月8日にロシアが提出し、越境人道支援の期間を半年延長し、2021年1月10日まで継続する一方、バーブ・サラーマ国境通行所を除外することを求めた。採決は、ロシアや中国など4ヵ国が賛成、米英仏など7ヵ国が反対、4ヵ国が棄権し、否決された(S/2020/671)[16]

第3の決議案(S/2020/667)は2020年7月10日にベルギーとドイツが再提出、越境人道支援の期間を半年延長し、2021年1月10日まで継続することともに、バーブ・サラーマ国境通行所とバーブ・サラーマ国境通行所を維持することを求めた。採決では、第1の決議案と同様13ヵ国が賛成したものの、ロシアと中国が拒否権を発動し、廃案となった(S/2020/693)。

第4の決議案(S/2020/683)も同じく2020年7月10日にロシアが再提出、越境人道支援の期間を1年延長し、2021年7月10日まで継続する一方、バーブ・サラーマ国境通行所を除外することを求めた。採決では、第2の決議案と同様、4ヵ国が賛成、7ヵ国が反対、4ヵ国が棄権し、否決された(S/2020/694)。

一連の採決において、ロシアは「テロリスト」が支配する北西部に人道支援を輸送し、そこでの市民のニーズに対応するには、通行所は1つで十分だと考えていると主張した。また、中国は、一方的な強制措置が解除されない限り、シリアの人道状況の本質的な改善にはならないとして、欧米諸国による制裁解除を求めた。これに対して、米国などは、北西部の困窮状態に対処するには、バーブ・サラーマ国境通行所とバーブ・サラーマ国境通行所を維持し、越境人道支援を拡大する必要があると反論した。

最終的には、2020年7月11日にドイツとベルギーが再度提出した第5の決議案が、米英仏など12ヵ国の賛成[17]、ロシア、中国、ドミニカ共和国の3ヵ国の棄権で採択された。その内容は、ロシアが提出した第2の決議案に沿ったもので、越境人道支援の期間を半年延長し、2021年1月10日まで継続することが定められる一方、バーブ・サラーマ国境通行所を越境人道支援の経路から除外することが定められた(S/2020/702)。

地図7は決議が採択された2020年7月の勢力図である。前回決議が採択された同年1月以降の半年間に、シリア軍とロシア軍は、反体制派とトルコと北西部で交戦し、アレッポ市とハマー市を結ぶM5高速道路を解放し、反体制派の支配地を縮小させた。この戦闘は同年3月のロシアとトルコの停戦合意をもって収束、以降、シリア軍と反体制派による大規模な戦闘は発生しなくなった(青山[2021])。

地図7 2020年7月の勢力図

(出所)筆者作成。

7回目

7回目の延長は、2021年7月9日に採択された国連安保理決議第2585号(S/RES/2585 (2021))によって決定された。だがこの延長も紆余曲折を経た。

2021年6月26日に開催された安保理会合において、ノルウェーとアイルランドが越境人道支援の期間を1年延長し、2022年1月10日まで継続するとともに、ヤアルビーヤ国境通行所を復活させることを求める決議案を提出した。だが、ロシアとシリアは、復活に反対、延長期間を半年に限定するよう主張、米国もヤアルビーヤ国境通行所だけでなく、バーブ・サラーマ国境通行所も復活するよう求めたことで、採決を経ずに廃案となった。

事態に対処するため、ノルウェー、アイルランド、ロシア、米国は2021年7月9日、共同で決議案を提出、同案は全会一致で採択された[18]。その内容は、越境人道支援の期間を半年延長し、2022年1月10日まで継続すること、バーブ・ハワー国境通行所のみの利用を認めること、また「事務総長が特に透明性に配慮して報告書を提出し、人道的ニーズを満たすための境界経由(クロスライン、cross-line)でのアクセスを進展させることを条件」として、半年、すなわち同年7月10日まで自動的に追加延長することが定められた。さらに、ロシアとシリアの主張に沿って、早期復旧プロジェクトの推進、境界経由の人道支援の促進が明確に盛り込まれた(S/PV.8817)。決議採択は、米国が「越境人道支援をシリア人のレジリエンス強化とリハビリテーションに限定することを誓約する」(Ḥamīdī[2021])ことに加えて、ヤアルビーヤ国境通行所とバーブ・サラーマ国境通行所の復活を断念するという譲歩を行うことで実現した。

なお、前回決議が採択された2020年7月以降の1年間に国内の勢力図に変化はなかった。

8回目

8回目の延長は、国連安保理決議第2585号が定めた期限の2022年1月10日までに新たな安保理決議での延長が実現しなかったことを受けて同年7月10日に自動的に追加延長された。

なお、前回決議が採択された2021年7月以降の半年間に国内の勢力図に変化はなかった。

9回目

9回目の延長は、2022年7月12日に採択された国連安保理決議第2642号(S/RES/2642 (2022))によって決定された。この延長も二つの決議案が否決され、困難を極めた。

第1の決議案(S/2020/538)は、アイルランドとノルウェーが2022年7月8日に共同で提案し、越境人道支援の期間を半年延長し、2023年1月10日まで継続するとともに、安保理が延長を決議できなかった場合、さらに半年、すなわち7月10日まで自動的に追加延長することを求めた。採決では、米英仏など13ヵ国[19]が賛成したが、中国が棄権、ロシアが拒否権を発動して、廃案となった(S/PV.9087)。

第2の決議案(S/2022/541)は、ロシアが同じ2022年7月8日に提出、越境人道支援の期間を半年延長し、2023年1月10日まで継続するとともに、境界経由での人道支援を「完全、安全、そして妨害なく」認めることを求めた。採決では、中国、ロシアの2ヵ国が賛成、フランス、英国、米国の3ヵ国が反対、10ヵ国[20]が棄権し、否決された(S/PV.9087)。

最終的には、2022年7月12日にアイルランドとノルウェーが再度提出した第3の決議案が、ロシアや中国など12ヵ国[21]の賛成、フランス、英国、米国の3ヵ国の棄権で採択された。その内容は、ロシアが示した第2の決議案を踏襲したもので、越境人道支援の期間を半年延長し、2023年1月10日まで継続することを定めた。また、同年7月10日までの6ヵ月の延長について、新たな決議の採択を必要とすることも付記された。採択に先立って、延長期間を9ヵ月とする案も検討されたが、ロシアはこれについても拒否した(S/PV.9089)。

なお、国連安保理決議第2585号に基づく期間の自動的な追加延長が行われた2022年1月以降の半年間に国内の勢力図に変化はなかった[22]

10回目

10回目の延長は、2023年1月9日に採択された国連安保理決議第2672号(S/RES/2585 (2023))によって決定された。アイルランドとノルウェーが共同で提案した同決議は、全会一致[23]で採択された。これにより、越境人道支援の期間を半年延長し、同年7月10日まで継続することが定められた(S/PV.9240)。

地図8は決議が採択された2023年1月の勢力図である。国連安保理決議第2585号に基づいて越境人道支援の有効期間が自動延長された2021年7月以降の半年間に、反体制派が2022年10月、トルコの占領下にあるアフリーン市一帯に浸透した(青山[2022b])。

地図8 2023年1月の勢力図

(出所)筆者作成。


4 境界経由の人道支援

これまで見てきた通り、越境人道支援は縮小の一途を辿ったが、これに対して拡大がめざされるようになったのが境界経由での人道支援だった。ここでいう境界(line)とは、シリア政府、反体制派、クルド民族主義勢力の支配地の境界線を意味した。

「境界経由」という言葉は、国連安保理決議第2332号において、国連がシリア政府にその実施を要請する支援経路として初めて用いられた。その後、国連安保理決議第2449号、第2504号、第2533号においては、国連事務総長に越境人道支援とともに実施状況の報告を求めるかたちで言及された。

境界経由の人道支援が積極的に推奨されるようになったのは国連安保理決議第2585号においてであった。この動きを主導したロシアは、シリア政府の承認を必要としない越境人道支援を廃して、同政府が承知し、その支配地を経由するかたちで反体制派やクルド民族主義勢力の支配地に支援を行うスキームを強化することで、国際社会におけるシリア政府の存在をより確固たるものにしようとした。

地図9は国連安保理決議第2585号が採択された2021年7月時点に国内の境界線上に設置されていた通行所を示したものである。Jusūr li-l-Dirāsāt[2021]に従うと、これらの通行所の用途は表1の通り分類できる。

地図9 国内通行所

(出所)Jusūr li-l-Dirāsāt[2021]などをもとに筆者作成。

表1 通行所の用途

境界 通商  民生  密輸  記載なし 
シリア政府・反体制派  ミーズナーズ村(アレッポ県)・マアーッラト・ナアサーン村(イドリブ県)  サラーキブ市・タルナバ村(いずれもイドリブ県) 
クルド民族主義勢力(あるいはシリア政府との共同支配地)・トルコ占領地  アウン・ダーダート村(アレッポ県)  アウン・ダーダート村 アアイワ村(ハサカ県)
バッラード村(アレッポ県)
ハムラーン村・ウンム・ジュルード村(いずれもアレッポ県)
反体制派・トルコ占領地 アティマ村(イドリブ県)・ダイル・バッルート村(アレッポ県) 
ガザーウィヤ村・ダイル・スィムアーン村(いずれもアレッポ県)
アブー・ザンディーン村(アレッポ県)
アティマ村・ダイル・バッルート村
ガザーウィヤ村・ダイル・スィムアーン村 
シリア政府・クルド民族主義勢力 カーミシュリー国際空港交差点(ハサカ県)
シュアイブ・ズィクル橋(ラッカ県)
ジュダイド・アカイダート村(ダイル・ザウル県)
ターイハト・トゥワイマート村・アブー・カフフ村(いずれもアレッポ県)
ハウィージャト・シャンナーン村(ラッカ県)
ハウラ村(ラッカ県)
マルシュー交差点(ハサカ県)
カーミシュリー国際空港交差点
サーリヒーヤ町・工業地区(いずれもダイル・ザウル県)
シュアイブ・ズィクル橋
ジュダイド・アカイダート村
ターイハト・トゥワイマート村・アブー・カフフ村
ハウィージャト・シャンナーン村
ハウラ村
マルシュー交差点
シュハイル村(ダイル・ザウル県)
ジャルズィー村(ダイル・ザウル県)
ジュダイダト・バカーラ村(ダイル・ザウル県)
スブハ村(ダイル・ザウル県)
ズィーバーン町(ダイル・ザウル県)
タヤーナ村(ダイル・ザウル県)
ダルナジュ村(ダイル・ザウル県)
ブサイラ市(ダイル・ザウル県)
ムハイミーダ村(ダイル・ザウル県)

(出所)Jusūr li-l-Dirāsāt[2021]などをもとに筆者作成

このなかで、国連の枠組みにおいて、境界経由の人道支援の経路として想定されたのは、シリア政府と反体制派の支配地の間にあるミーズナーズ村(アレッポ県)・マアーッラト・ナアサーン村(イドリブ県)間の通行所、サラーキブ市・タルナバ村(いずれもイドリブ県)間の通行所の2ヵ所だった。

シリア政府が境界経由の人道支援に積極的だったのに対して、反体制派は拒否の姿勢を示した。シリア政府の支配地から物資が供給されることで、従属的な立場を強いられ、政府の影響力が増すことを懸念したためだ。そのため境界経由の人道支援が実際に行われることはほとんどなかった。北西部で支援活動にあたっているシリア対応調整者(Facebook[2023])によると、本稿執筆時までに境界経由の人道支援が実施されたのは11回、物資輸送に使用された貨物車輛は163輛だけだった。

なお、境界経由の人道支援は、シリア政府の支配地と、同政府とクルド民族主義勢力の共同支配地を隔てるターイハト・トゥワイマート村・アブー・カフフ村(いずれもアレッポ県)間、シュアイブ・ズィクル橋、ハウラ村(以上ラッカ県)、カーミシュリー市のカーミシュリー国際空港、ハサカ市のマルシュー交差点(以上ハサカ県)、シリア政府とクルド民族主義勢力の共同支配地とトルコ占領地を隔てるアウン・ダーダート村(アレッポ県)などを経由して行うこともできた。なぜなら、そこでは、人、モノ、カネの往来が認められていたためである。しかし、これらの通行所を経由した支援が、境界経由の人道支援の文脈で着目されることはほとんどなかった。


5 トルコ・シリア大地震がもたらした動き

2023年2月6日に発生したトルコ・シリア大地震は、シリアへの人道支援の流れに少なからぬ変化をもたらした。シリア政府、反体制派、クルド民族主義勢力の支配地が交錯するラタキア県、アレッポ県、ハマー県、そしてイドリブ県で推計5,791人(うち反体制派の支配地とトルコの占領地4,377人)が死亡、シリアのGDPの約10%に相当する51億米ドルの直接的な物的被害をもたらしたとされるこの災害は(OCHA[2023a]、The World Bank[2023])、シリアへの緊急支援を急増させた。

シリア政府への支援

受け入れ先として選ばれたのはシリア政府だった。支援を行ったのは、ロシア、中国、イラン、イラクといった旧来からのシリアの同盟国や友好国、アラブ首長国連邦、オマーン、エジプト、ヨルダン、バハレーンなど2018年以降にシリア政府との関係を改善した国々、さらにはインド、パキスタン、インドネシア、カザフスタン、アルメニアといった国だった。未曽有の災害を受けて、米国が2023年2月10日に、欧州連合(EU)が23日に対シリア制裁の180日間(ないしは6ヵ月)の凍結を決定したのと前後して、西側諸国、具体的には日本、イタリア、ドイツもシリア政府への緊急人道支援を行なった。この動きは、3月に中国の仲介によるサウジアラビアとイランの関係改善とあいまって、シリア政府の国際社会への復帰を後押しし、5月19日にサウジアラビアのジェッダで開催された第32回アラブ連盟首脳会議にバッシャール・アサド大統領が出席、シリアは12年ぶりにアラブ連盟への復帰を果たした。

国際社会の好意的な対応を前に、シリア政府は寛容かつ積極的な姿勢を示した。アサド大統領は2023年2月6日に緊急閣議を召集し、地方行政環境大臣を室長とする中央対策室を設置するとともに、各県知事に対して公営、民営セクターのすべての能力と設備を動員し、救援・支援活動を行うよう指示した。また、2月10日にはフサイン・アルヌース内閣が、反体制派とクルド民族主義勢力の支配地、そしてトルコの占領地を含む全土に対しても、境界経由での災害支援を行うことを決定した。この全土支援は、赤十字国際委員会とシリア・アラブ赤新月社が監督し、国連各機関が被災者に物資を届けるという仕組みが採用された。

シリア政府の支配下にない地域へのトルコからの越境人道支援についても、2023年2月13日に、唯一の経路となっていたバーブ・ハワー国境通行所に加えて、バーブ・サラーマ国境通行所、そしてラーイー村(アレッポ県――トルコ側はキリス県エルベイリ市)北にトルコが2017年12月に一方的に開設していた通行所(ʻInab Baladī[2017])の2ヵ所を3ヵ月間に限って、被災者への緊急人道支援のために開放する旨を国連に通達した(地図10を参照)。シリア政府は2023年5月13日、8月8日、11月14日に両通行所の使用を3ヵ月延長することを認め、2024年2月13日までの利用を許可した(青山[2023a]、シリア・アラブの春顛末記[2023n][2023o]、Reuters[2023b])。

反体制派支配地への支援

その一方で、反体制派の支配地への支援は対応の鈍さが目立った。国連の越境人道支援は、「黄金の72時間」(golden 72 hours)が終わろうとしていた2023年2月9日まで途絶えた。

諸外国の反応も迅速とは言えなかった。反体制派の支配地に政府レベルで支援を行ったのは、サウジアラビア、カタール、エジプト、米国、そしてトルコだけだった。このうち、サウジアラビアとエジプトは2023年2月14日にそれぞれ救援物資の供与と救援部隊の派遣を行って以降、シリア政府経由での支援に注力するようになった。

反体制派はシリア政府の支配地からの支援の受け入れを頑なに拒否し、トルコからの越境人道支援を求め続けた。同時に、反体制派を主導するシャーム解放機構は、被災者への支援に積極的に関与する姿勢を示すことで、「テロリスト」の汚名を払拭し、反体制派の支配地の為政者としての存在を誇示しようとした。トルコ・シリア大地震前の2021年8月と12月に実施された世界食糧計画(WFP)による境界経由での人道支援や越境人道支援に際して、貨物車輌の護衛を行うなどしてきたシャーム解放機構は、指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーが2023年2月7日から8日にかけて被災地の被害状況の視察を行った。視察は、反体制派の支配地だけでなく、被害が大きかったとされるトルコ占領下のジャンディールス町(アレッポ県)にも及んだ(青山[2023b])。

なお、国連による境界経由での人道支援は、2023年6月23日に11回目となる物資輸送が1度だけ行われた(X (Twitter)[2023])。シリア対応調整者(Facebook[2023])によると、物資は貨物車輛10輛に積まれ、サラーキブ市・タルナバ村間の通行所を経由して輸送された(地図10を参照)。

地図10 トルコ・シリア大地震の被災者に対する人道支援で使用された国境通行所と国内通行所

(出所)筆者作成。

クルド民族主義勢力の支配地への支援

クルド民族主義勢力の支配地は、アレッポ市シャイフ・マクスード地区やアシュラフィーヤ地区、そしてタッル・リフアト市(アレッポ県)一帯地域が被災した。シリア政府の支配地内に「飛び地」として存在する同地への支援はシリア政府の支配地を経由して行われた。

外国からの支援は、2023年3月29日、4月4日、そして6日、イラク・クルディスタン地域のスライマーニーヤ市の住民から寄せられた人道支援物資が、ヤアルビーヤ国境通行所を通じてクルド民族主義勢力の支配地に入ったのち、アイン・アラブ(コバネ)市(アレッポ県)の住民からの物資とともに、ターイハト・トゥワイマート村・アブー・カフフ村(いずれもアレッポ県)間の通行所を経由してシリア政府の支配地に輸送され、その後クルド民族主義勢力の「飛び地」に搬入された(シリア・アラブの春顛末記[2023k][2023l][2023m])。

また、クルド民族主義勢力の支配下にある北東部から「飛び地」への支援の輸送も、2023年2月18日、22日、23日、3月6日に、ターイハト・トゥワイマート村・アブー・カフフ村間の通行所を通じてシリア政府の支配地を通過して行われた(シリア・アラブの春顛末記[2023d][2023g][2023h][2023i])。シリア政府は当初、物資の中継に難色を示した。だが、物資の一部を政府の支配地内の被災地にも融通することを条件にこれを認めた。なお、シリア政府の支配地からも2月19日と20日には、シリア・アラブ赤新月社の貨物車輌がクルド民族主義勢力の「飛び地」に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの救援物資を輸送した(シリア・アラブの春顛末記[2023e][2023f]、地図10を参照)。

トルコの占領地への支援

トルコの占領地へは、シリア政府が使用を認めたバーブ・サラーマ国境通行所、ラーイー市北の通行所を通じて国連の越境人道支援が行われた。また両通行所と、トルコ占領下のハマーム村(アレッポ県――トルコ側はハタイ県クムル市)西にトルコが2018年4月に開設していた通行所(通称オリーブの枝通行所、Baladī[2019]、‘Inab Baladī[2018]、Syria TV[2018]、正式開通は2019年3月)を経由して、トルコのイニシアチブのもとに支援物資の搬入が行われた(地図10を参照)。

これに対して、境界経由での人道支援は、トルコの占領支配を支援する反体制派が2023年2月10日、ハムラーン村・ウンム・ジュルード村(いずれもアレッポ県)間の通行所でクルド民族主義勢力が調達した救援物資を積んだ貨物車輛からなる車列の通過を阻止した(シリア・アラブの春顛末記[2023a])。だが、同勢力の支配下にあるダイル・ザウル県、ラッカ県、アレッポ県の住民が調達した物資については2月13日、14日、3月8日、ハムラーン村・ウンム・ジュルード村間の通行所を経由して輸送が認められた(シリア・アラブの春顛末記[2023b][2023c][2023j])。


6 失効と再開

トルコ・シリア大地震によって、シリア政府への人道支援が増すなかで、越境人道支援を廃止に追い込もうとするロシアとシリア政府の攻勢も強まった。

国連安保理決議第2672号が定めた失効日である2023年7月10日の翌日にあたる7月11日、国連安保理において越境人道支援の期間延長を審議するための会合が開かれ、二つの決議案の審議が行われた。

第1の決議案(S/2023/506)は、スイスとブラジルが共同で提案し、越境人道支援の期間を1年延長し、2024年7月10日まで継続することを求めた。審議では、ロシアの反発を回避すべく、延長期間9ヵ月に短縮する修正案も示された。だが、採決では、米英仏など13ヵ国[24]が賛成したのに対し、中国とロシアが拒否権を発動し、廃案となった。

第2の決議案(S/2023/507)は、ロシアが提出、越境人道支援の期間を半年延長し、2024年7月10日まで継続することを求めた。採決では、中国とロシアの2ヵ国が賛成したが、米英仏が反対、10ヵ国の非常任理事国が棄権し、否決された(S/PV.9371)。

両決議案が否決されたことにより、越境人道支援の期間は延長されることなく失効した。

各国国連大使は非難合戦に終始した。米国のリンダ・トーマス=グリーンフィールド大使は、ロシアの拒否権発動について、「シリア国民と安保理にとって悲しい瞬間だ」としたうえで、「不当なことを正当化した」ことについて国際社会とシリア国民に答えねばならないとロシアを指弾した。フランスのニコラス・デ=リヴィエール大使は、ロシアの決議案が定める6ヵ月という期間延長が、冬季の支援を不確実なものにすると異論を唱えた。

対するロシアのワシーリー・ネヴェンジャ国連大使は、西側諸国が提出した決議案について、シリア国民の利益を無視したもので、越境での支援の仕組みを利用して、北西部の「テロリスト」への支援拡充を狙ったものだと非難、越境人道支援がなくても、シリア政府との調整を通じて支援は可能だと主張した。一方、中国の張軍大使は、越境人道支援があくまでも暫定的な措置だとしつつ、決議案が否決されたことに遺憾の意を示した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2023年7月11日に声明(SG/SM/21871)を出し、決議案が否決されたことに失望の意を示し、越境人道支援再開の道は絶たれたかに見えた。

だが、越境人道支援はこれで終わらなかった。

バッサーム・サッバーグ国連シリア代表は2023年7月13日、国連安保理宛の書簡で、シリア政府が事態に対処するため、国連および関連機関に対して、シリア政府との完全なる協力と連携のもと、6ヵ月という期間限定で、バーブ・ハワー国境通行所を通じた越境人道支援を許可する旨を伝えたことを明らかにしたのだ。この再開は、国連安保理が「テロリスト」に指定している組織と連絡をとらないこと、赤十字国際委員会とシリア・アラブ赤新月社が物資の輸送を監督すること、そして早期復旧プロジェクトを推進すること、という三つを条件とした。

Reuters[2023a]は、OCHAはシリア政府が示した「二つの容認し得ない条件」を問題視していると伝えた。この報道の真偽は不明だが、シリア政府による働きかけに応じるかたちで(あるいは抗うかたちで)、デビッド・カーデン国連シリア危機地域人道調整官代理は2023年9月11日から12日にかけて、北西部で活動する人道活動調整事務所(Humanitarian Action Coordination Office、HAC)と物資輸送の委託にかかる合意を交わした(ʻInab Baladī[2023c])。かくして、バーブ・ハワー国境通行所を経由した国連の越境人道支援はHACを介して2ヶ月ぶりに再開した。

OCHAは2023年9月13日付で北西部の現状についての最新レポート(OCHA[2023b])を発表した。それによると、国連は委託業務開始などを受けて、8月に北西部に対する越境人道支援を32回実施し、これによりトルコ・シリア大地震発生以降200以上のミッションを終えた。また、国連安保理決議第2672号が失効した7月10日から8月31日までに国連の援助物資を積んだ貨物車輌195輌がバーブ・サラーマ国境通行所を経由して北西部に入り、現地でサービスや物資の提供を行った。


7 おわりに

越境人道支援の失効は、シリアに「最悪よりもさらに悪い」深刻な人道危機をもたらすかに思えた。だが、実際にはそうした危機は生じなかった。

理由は、越境人道支援継続に対してシリア政府が「寛容」な姿勢を示したからでもなければ、HACへの委託によって越境人道支援が再開したからでもない。国連の越境人道支援の有無、存廃とは無関係に、非公式、あるいは違法に国境通行所が利用され、ヒト、カネ、モノが流入し続けてきたからだ。地図11は、そうした国境通行所を示したものである。

地図11 違法に設置、あるいは利用されている国境通行所

(出所)筆者作成。

トルコの占領地では、バーブ・サラーマ国境通行所、ラーイー村の通行所に加えて、トルコ占領地にあるジャラーブルス国境通行所、タッル・アブヤド国境通行所、ラアス・アイン国境通行所、そしてオリーブの枝通行所が開放され、トルコのNGOなどが人道支援を行っている。反体制派の支配地は、バーブ・ハワー国境通行所を通じてトルコのNGOが物資を輸送することができ、カフルルースィーン村(イドリブ県)の軍用通行所も利用可能である。イラクとの国境では、クルド民族主義勢力がイラク・クルディスタン地域との間に違法に設置したスィーマルカー国境通行所、米軍がシリアへの兵站物資の輸送やシリア国内で盗奪した石油や穀物をイラクに持ち出すために使用しているワリード国境通行所、そして同通行所への負担を軽減するためにその北7キロの地点に新設され、2022年10月から運用が開始されたマフムーディーヤ国境通行所がある(Qanāt al-‘Ālam[2022])。なお、ブーカマール国境通行所の西3キロの地点には、イラク側から伸びる鉄道とシリア領内のハリー村を結ぶ非公式の国境通行所(鉄道通行所)があり、「イランの民兵」が物資の輸送に使用している。米軍の占領下にある55キロ地帯内のタンフ国境通行所は閉鎖されているが、同地への兵站物資の輸送に支障はない。このほか、各国との国境にはいくつもの密輸ルートが存在している。

越境人道支援の失効によって、国連が加盟国の承認や要請に基づいて第三国経由で人道支援を行うというごくあたりまえの状態に戻っただけだった。だが、主権国家が当然のこととして行うはずの国境管理が行われていないがゆえに、国家の主権が及ばない国境地帯を実効支配する政治主体、あるいは軍事主体が、自らの利益や意思に基づいて「自由」に通行所を利用できる。

問題は、国連がどの国境通行所を利用し得るのかではない。境界線を挟む両当事者の間に合意や意思疎通がないこと、両者のいずれか、あるいは双方の意思に従おうとしない部外者が国境通行所を利用し得ること、これこそが問題の本質で、人道支援を政治利用することを可能としているのである。



[1] 欧米諸国、トルコ、サウジアラビア、カタール、トルコといった国が支援してきた組織や個人。そのなかで、もっとも有力なのは、シリアのアル=カーイダとして知られ、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)が国際テロ組織に指定し、米国も国際テロ組織(Foreign Terrorist Organizations、FTO)に指定しているシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)であり、同組織を含むアル=カーイダ系および非アル=カーイダ系のイスラーム過激派が今日の反体制派を主導している。
[2] トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(Partiya Karkerên Kurdistan、PKK)と系譜を同じくする民主統一党(Partiya Yekîtiya Demokrat、PYD)、同組織が結成した民兵組織の人民防衛隊(Yekîneyên Parastina Gel、YPG)、同部隊を主力とするシリア民主軍とその政治部門であるシリア民主評議会、社会運動体の民主連合運動(Tevgera Civaka Demokratîk‎、TEV-DEM)、自治政体の西クルディスタン移行期民政局(通称ロジャヴァ(Rojava))、北・東シリア自治局のこと。PKKは、トルコだけでなく、米国もFTOに指定しているが、シリア民主軍は、米国の主導のもと、イスラーム国を殲滅することを目的に結成された有志連合(「生来の決戦作戦」統合任務部隊(Combined Joint Task Force – Operation Inherent Resolve、CJTF-OIR))の「協力部隊」(partner-forces)でもある。
[3] 紛争下のシリアで、シリア軍やロシア軍と共闘する民兵の蔑称。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。シリア政府側は、シリア内戦の文脈においてこれらの組織を「同盟部隊」と呼ぶ。
[4] オーストラリア、チャド、チリ、フランス、ヨルダン、リトアニア、ルクセンブルグ、韓国、ルワンダ、英国、米国。
[5] ジュースィーヤ国境通行所は、ヒムス県クサイル市一帯での戦闘激化に伴い、2012年8月に閉鎖されていた(al-Nahār[2017])。
[6] アルゼンチン、オーストラリア、チリ、中国、フランス、ヨルダン、リトアニア、ルクセンブルグ、ナイジェリア、韓国、ロシア、ルワンダ、英国、米国。
[7] ブーカマール国境通行所は2019年9月30日に再開された(Aljazeera.net[2019])。
[8] アンゴラ、中国、エジプト、フランス、日本、マレーシア、ニュージーランド、ロシア、セネガル、スペイン、ウクライナ、ウルグアイ、英国、米国、ベネズエラ。
[9] エジプト、エチオピア、フランス、イタリア、日本、カザフスタン、セネガル、スウェーデン、ウクライナ、英国、米国、ウルグアイ。
[10] 2017年12月、シリア政府の支配下にあったジュースィーヤ国境通行所も再開されたた(al-‘Arabī al-Jadīd[2017])。
[11] ボリビア、コートジボワール、赤道ギニア、エチオピア、フランス、カザフスタン、クウェート、オランダ、ペルー、ポーランド、スウェーデン、英国、米国。
[12] ベルギー、コートジボワール、ドミニカ共和国、赤道ギニア、フランス、ドイツ、インドネシア、クウェート、ペルー、ポーランド、南アフリカ、英国、米国。
[13] 賛成は中国、コートジボワール、赤道ギニア、ロシア、南アフリカ、反対派ドミニカ共和国、フランス、ペルー、ポーランド、英国、米国、棄権はベルギー、ドイツ、インドネシア、クウェート。
[14] ベルギー、ドミニカ共和国、エストニア、フランス、ドイツ、インドネシア、ニジェール、セントビンセント・グレナディーン、南アフリカ、チュニジア、ベトナム。
[15] ベルギー、ドミニカ共和国、エストニア、フランス、ドイツ、インドネシア、ニジェール、セントビンセント・グレナディーン、南アフリカ、チュニジア、英国、米国。
[16] 中国、ロシア、南アフリカ、ベトナムが賛成、ベルギー、ドミニカ共和国、エストニア、フランス、ドイツ、英国、米国が反対、インドネシア、ニジェール、セントビンセント・グレナディーン、チュニジアが否決した。
[17] ベルギー、エストニア、フランス、ドイツ、インドネシア、ニジェール、セントビンセント・グレナディーン、南アフリカ、チュニジア、英国、米国が賛成、
[18] 中国、エストニア、フランス、インド、アイルランド、ケニヤ、メキシコ、ニジェール、ノルウェー、ロシア、セントビンセント・グレナディーン、チュニジア、英国、米国、ベトナム。
[19] アルバニア、ブラジル、フランス、ガボン、ガーナ、インド、アイルランド、ケニヤ、メキシコ、ノルウェー、アラブ首長国連邦、英国、米国。
[20] アルバニア、ブラジル、ガボン、ガーナ、インド、アイルランド、ケニヤ、メキシコ、ノルウェー、アラブ首長国連邦。
[21] アルバニア、ブラジル、中国、ガボン、ガーナ、インド、アイルランド、ケニヤ、メキシコ、ノルウェー、ロシア、アラブ首長国連邦。
[22] この間、2022年5月に、ヒムス県にマトリバー国境通行所(レバノン側はベカー県のハムラー国境通行所)が新たに開通した(al-‘Arabī al-Jadīd[2022])。
[23] アルバニア、ブラジル、中国、エクアドル、フランス、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、モザンビーク、ロシア、スイス、アラブ首長国連邦、英国、米国。
[24] アルバニア、ブラジル、エクアドル、フランス、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、モザンビーク、スイス、アラブ首長国連邦、英国、米国。


文献リスト

青山弘之[2021]『膠着するシリア:トランプ政権は何をもたらしたか』東京外国語大学出版会。
―――[2022a]「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」『国際情勢』第92号(3月)、pp. 97-119/CMEPS-J Report No. 65(9月1日、https://cmeps-j.net/cmeps-j-reports/cmeps-j_report_65).
―――[2022b]「ロシア軍がシリア北部のアレッポ県を爆撃し、多数死傷:シャーム解放機構による秩序再編の試みに乗じた攻撃」YAHOO! JAPANニュース(エキスパート)、10月17日(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5cd65dadc4c76ddbd5a9593fffa32d7ef7711756).
―――[2023a]「「有史以来最大規模」の地震と「今世紀最悪の人道危機」の二重苦に喘ぐシリア」YAHOO! JAPANニュース(エキスパート)、2月24日(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b9fc3f230dfb5c42ea595c1268e6c1863adbda00).
―――[2023b]「シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在:トルコ・シリア地震発生から3週間」YAHOO! JAPANニュース(エキスパート)、2月27日(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/48087355397f5e14fe4e87a03b15cefa319d4a28).
シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢[2023a]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局が用意した救援物資を積んだ車列がトルコ占領地とシリア政府支配地との境界の通行所で足止め(2023年2月10日)」2月10日(http://syriaarabspring.info/?p=97567).
―――[2023b]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局からの人道支援物資を積んだ大型車輌が足止めを受けるなか、同自治局住民らの支援物資を積んだ車輌のトルコ占領地への通行が認められる」2月13日(http://syriaarabspring.info/?p=97697).
―――[2023c]「【トルコ・シリア大地震】前日に続いて、支援物資をアウン・ダーダート村の通行所を経由して、北・東シリア自治局支配地からトルコ占領下の「ユーフラテスの盾」地域に」2月14日(http://syriaarabspring.info/?p=97725).
―――[2023d]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局からの燃料を積んだトレーラー100輌がアレッポ県のターイハト・トゥワイマート村の国境通行所を経由してシリア政府支配地に入る」2月18日(http://syriaarabspring.info/?p=97913).
―――[2023e]「【トルコ・シリア大地震】シリア・アラブ赤新月社からの救援物資を積んだ貨物車輌20輌が、PYDが主導する北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ市シャイフ・マクスード地区およびアシュラフィーヤ地区に初めて入る」2月19日(http://syriaarabspring.info/?p=97925).
―――[2023f]「【トルコ・シリア大地震】シリア・アラブ赤新月社が前日に続いて、北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ市シャイフ・マクスード地区に救援物資を輸送するなか、両区の幹部はシリア軍第4師団が両区を封鎖していると非難」2月20日(http://syriaarabspring.info/?p=97966).
―――[2023g]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局支配下のアレッポ県タッル・リフアト市一帯地域とアレッポ市シャイフ・マクスード地区およびアシュラフィーヤ地区にシリア政府支配地を経由してクルド赤新月社とUNHCRの支援物資が入る」2月22日(http://syriaarabspring.info/?p=98053).
―――[2023h]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局は人道支援物資をシリア政府支配地を経由してアレッポ県内の被災地に届ける」2月23日(http://syriaarabspring.info/?p=98102).
―――[2023i]「【トルコ・シリア大地震】シリア駐留ロシア軍はPYDが主導する北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ市シャイフ・マクスード地区に食料、毛布、衣類、テントなど貨物車輌4輌分の支援物資を提供」3月6日(http://syriaarabspring.info/?p=98409).
―――[2023j]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局の支配下にあるラッカ県からの人道支援物資が北・東シリア自治局の支配地とトルコ占領下の「ユーフラテスの盾」地域を隔てるアウン・ダーダート村の通行所に到着」3月8日(http://syriaarabspring.info/?p=98478).
―――[2023k]「【トルコ・シリア大地震】北・東シリア自治局の支配地からの人道支援物資を積んだ貨物車輌30輌が政府支配地との境界に位置するターイハト・トゥワイマート村の通行所の通過をシリア政府側に認められる」3月29日(http://syriaarabspring.info/?p=99099).
―――[2023l]「【トルコ・シリア大地震】イラク・クルディスタン地域のスライマーニーヤ市の住民から寄せられた物資が1ヵ月を経て北・東シリア自治局の飛び地であるアレッポ市シャイフ・マクスード地区、アシュラフィーヤ地区に到着」4月4日(http://syriaarabspring.info/?p=99262).
―――[2023m]「【トルコ・シリア大地震】イラク・クルディスタン地域のスライマーニーヤ市とアイン・アラブ(コバネ)市の住民からの支援物資がすべて北・東シリア自治局の支配地に届けられる」4月6日(http://syriaarabspring.info/?p=99285).
―――[2023n]「サッバーグ国連シリア代表は地震の被害に対応するために国連などに与えたバーブ・サラーマ国境通行所とラーイー村北の通行所の使用許可を3ヵ月延長すると発表」5月13日(http://syriaarabspring.info/?p=100070).
―――[2023o]「シリア政府は国連および関連機関に対してバーブ・サラーマ国境通行所とラーイー村北の通行所の使用許可を3ヶ月延長し、2024年12月13日まで両通行所を通じて越境(クロスボーダー)で人道支援物資を搬入することを認める」8月8日(http://syriaarabspring.info/?p=102193).
Akhbār al-Ān[2014]“Dā‘ish Tusayṭir ‘alā Ma‘bar Tall Abyaḍ al-Ḥudūdī ma‘a Turkiyā,” January 11 (https://www.akhbaralaan.net/news/arab-world/2014/01/11/syria-revolution-control-armed-groups-isis-city-reqqa-turkey).
Aljazeera.net[2019]“Iʻāda Fatḥ Maʻbar ‘Irāqī Sūrī li-l-Marra al-Ūlā mundhu 2014,” September 30 (https://www.aljazeera.net/ebusiness/2019/9/30/%D8%A5%D8%B9%D8%A7%D8%AF%D8%A9-%D9%81%D8%AA%D8%AD-%D9%85%D8%B9%D8%A8%D8%B1-%D8%B9%D8%B1%D8%A7%D9%82%D9%8A-%D8%B3%D9%88%D8%B1%D9%8A).
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国連文書

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