GCC閣僚級緊急会合:シリア・レバノン情勢をめぐって

CMEPS-J Report No. 83(2025年1月8日作成)

大森 耀太

湾岸協力理事会(GCC)は2024年12月26日(木曜日)、現議長の出身国であるクウェートで閣僚級緊急会合を開き、主にシリア情勢とレバノン情勢について協議した。

緊急会合は、2023年10月7日に始まったガザ地区での戦争が長期化し、周辺諸国の政情にも影響を及ぼしているのを受けて開催された。またイスラエルによるレバノン侵攻とその後の停戦合意、シリアでのシャーム解放機構を中心とする反体制派諸派によるバッシャール・アサド政権の打倒と新政権の形成、およびイスラエルによる占領地の拡大が現在、中東諸国だけでなく国際社会からの関心を呼んでいる。

以下では、GCC諸国のシリアやレバノンに対する姿勢を明らかにするため、会合後にGCCが出した声明を翻訳し、要点をまとめる。

声明文

シリア・アラブ共和国およびレバノン共和国における情勢を鑑みて、湾岸協力会議(GCC)は2024年12月26日木曜日(ヒジュラ暦1446年ジュマーダー・アーヒル月25日)、第46回緊急会合を開いた。この会合では、クウェートのアブドッラー・アリー・アブドッラー・ヤフヤー首相兼外相が議長を務め、以下の閣僚が参加した。

    • ハリーファ・シャーヒーン・マラル・アラブ首長国連邦(UAE)外相
    • アブドゥルラティーフ・ビン・ラーシド・ザヤーニー・バハレーン外相
    • ファイサル・ビン・ファルハーン・アル・サウード・サウジアラビア外相
    • バドル・ハマド・ブー・サイーディー・オマーン外相
    • ムハンマド・ビン・アブドゥルアズィーズ・ハリーフィー・カタール国務相
    • ジャースィム・ムハンマド・ブダイウィーGCC議長

会合では現行の情勢について協議したのち、以下の結論を出した。

シリア

    1. シリア・アラブ共和国の主権の尊重、当該国の独立および領土の統一の重要性を確認し、外国勢力による国内問題への介入を拒否した。またテロリズムや無政府主義、過激な行動および煽動と闘い、多様性や他者の信条を尊重する。
    2. 兄弟であるシリア人民の安定、発展、尊厳のある生活に対する望みを満たすような包括的かつ一貫した移行プロセスを達成するためのすべての尽力を支持することを表明した。
    3. リアの安全と安定は、地域情勢安定のための重要な柱の1つであることを確認した。
    4. 民間人の安全の保障」、「残虐な行為の抑制」、「愛国主義的利益の達成」、「シリアの国家機関や財産の維持」、「民兵や武装諸派の解散決定」、「国家による暴力装置の独占」のために取られたステップを歓迎した。これらのステップは、シリアにおける治安や安定の維持、当該国の地域的役割および国際的な地位をとりなす主要な柱である。
    5. すべての当事者およびシリア人民に、「様々な努力を一本化すること」、「国益に優先順位を付けること」、「1つの国家にこだわること」、「安全や安定、発展や繁栄に対する国民の望みを実現するために包括的な愛国的対話を行うこと」を勧めた。
    6. 国連事務総長による、シリアでの移行プロセスの支援と保護のために国連の派遣団を設立するという呼びかけを歓迎した。またそれとともに、地域平和や国際平和、および治安を維持するため、国家主権、内政不干渉、善隣政策、紛争の平和的解決などの国連憲章を遵守する必要性を確認した。
    7. 2024年12月14日にアカバ市で行われた、シリアに関するアラブ閣僚級連絡委員会の外相らが発した声明の内容を確認した。またその内容は、シリア人自らが主導する政治プロセスを彼らが実現するように援助する国連による尽力の支持、難民や国内避難民の保護、国際基準に沿った彼らの自発的かつ安全な帰還への取り組みである。
    8. イスラエルによるシリアの主権の侵害や1974年に締結された兵力引離し協定の破棄にみられるように、シリア国境沿いの兵力引き離し地域の占領を含む、イスラエルによるシリアへの度重なる攻撃を非難した。また国際社会が、シリア領に対するこのような攻撃の停止、および被占領地からのイスラエルの撤退のために責任を負う必要があると強調した。
    9. ゴラン高原はアラブおよびシリアの領土であることを確認したうえで、国連憲章や国際法原則、また関連する国連安保理決議の重大な侵害であるゴラン高原でのイスラエル占領政体による入植拡大の決定を非難した。
    10. シリアを経済的に強化するために、当該国に対する制裁の解除を呼びかけるとともに、すべてのパートナー、各国、関係組織に対しシリア人民を支援するすべての方策を講じるよう呼びかけた。またGCC諸国が引き続き人道支援を行うことを確認した。

レバノン

    1. 「レバノンの主権および安全や安定、領土の統一を支持すること」、「レバノンが政治的、経済的な危機を打破するような、包括的かつ抜本的な政治改革および経済改革を行う重要性」、「レバノンがテロリズムや麻薬密輸をはじめとする、地域の治安や安定を脅かす活動の拠点にならないこと」を確認した。またレバノンの軍事部隊や治安部隊の役割の重要性を強調した。
    2. レバノンでの停戦合意を順守する必要性を確認したうえで、数千人の犠牲者や避難民およびインフレや民間施設と保健施設の破壊をもたらしたイスラエルによる攻撃の継続や、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)が被った攻撃を非難した。
    3. 特に国連安保理決議第1701号をはじめとするレバノンに関する安保理決議やターイフ合意を履行する必要性を強調した。これは、レバノンにおける治安と恒常的な安定を取り戻し、領土の平和および政治的独立を保証し、国際的に認められた領土での主権の尊重およびレバノン政府の領内における支配地域拡大を確実なものにするためである。
    4. 早急に大統領選挙を行い、政府としての国民に対する責任を果たすために必要な経済改革を行う緊急性を強調した5か国委員会による尽力を支持することを確認した。またレバノン・GCC諸国間の信頼と協力関係を再度強化するにあたり、レバノンの友人らやパートナーらによる尽力を称賛するとともに、国内の治安維持というレバノン軍や治安部隊の役割への彼らの支持を称えた。
    5. レバノンでの急を要する人道的ニーズを満たすため、友好国や兄弟国のほか、GCC諸国によるレバノン人民に対する寛大な援助に言及した。

ガザ地区に関しては、GCCが常に揺るがず、兄弟であるパレスチナ人民の側、また合法的な権利を保護する側であったことを強調したうえで、カタール、エジプト、米国を仲介とする捕虜および人質解放努力が成功すると予想していると表明した。また「早急かつ恒久的で包括的な停戦の実現」、「ガザ地区に課されている包囲の終了」、「早急かつ無条件なすべての検問所の開放」、「ガザ地区の住民の人道的ニーズを満たすような人道支援や医療供給物資の搬入の保障」といった必要事項を強調した。

クウェートで発布
2024年12月26日木曜日(ヒジュラ暦1446年ジュマーダー・アーヒル月25日)

評価

シリアに関して、GCC諸国内でUAE、サウジアラビア、バーレーン、オマーン、カタールがシリア新政権に使節団を派遣したが、この声明のシリア2.、4.、5.、6.、10.からも、新政権による統治をGCCが歓迎していることが分かる。シリアでのアラブの春勃発以降カタールを筆頭にGCC諸国が、政権側による反体制派の弾圧を非難し、アラブ連盟の監視団からGCC諸国の要員を引き上げるなど、最近まで政権側に敵対的な立場を取っていたことを鑑みると、新政権をGCCが歓迎するのは予想できる動きだったと言える。また2.および10.を考慮すると、人道支援や政治的関係の改善を通じて今後関係を深化させることが予想される。

レバノンに関しては、「ヒズブッラー」などの特定の武装勢力の存在に言及することはなかったが、レバノン1.および3.から、政府による暴力装置の独占や領土の統治を支持する姿勢が見られた。また2.、3.、4.から、GCCが国連や国際社会と足並みを合わせていることがうかがえる。さらに10月2日にカタールで行われた閣僚級緊急会合では、紛争やエスカレーションの停止に終始していたが、この声明では4.から、紛争終結後の復興も視野に入れていることが分かる。一方で、GCCが主体となって行う活動は挙げられておらず、支援の継続を約束したシリア(10項目)とは異なる姿勢が見受けられる。

また最後にガザ地区での戦闘に言及しているが、その内容は以前からGCC諸国が訴えていたものであり、この声明で新たに示された点はなかった。

今後シリアでの移行プロセスが進められていくなかで、新憲法の起草および発布をはじめとして、新政権の性格が明らかになるにつれ、GCC諸国が新政権に対する態度をどのように変化させていくか検討を要するだろう。またレバノンにおいても、イスラエルによる侵攻という脅威が一旦停止しているなかで、以前から同国が抱えていた政治的問題や経済問題に、GCC諸国がどのように肩入れしていくかが注目される。

参考文献