「ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム」全訳(第1部)

CMEPS-J Report No. 76

木戸 皓平

(2024年3月30日)

本稿はシリア首相府の計画国際協力委員会(Hay’a al-Takhtit wa al-Ta‘awun al-Duwali、国家計画委員会)の主導により作成され、2020年5月に国連経済社会理事会の西アジア経済社会委員会(ESCWA)向けに公開された計画書「ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム:戦略的計画「シリア2030」」の拙訳のうち、第1部にあたるものである。

当計画書には、2011年の「アラブの春」波及に端を発する内戦(シリア政府の立場からは単に「戦争」と称される)を経験したシリア政府が、国家の現状に関して抱いている問題意識、さらにはそれを克服するために求められる条件、そしてそれらをクリアするための方針などの分析が詳細な数的統計に基づいて記述されている。

一方シリアについては、特に現政府(=バッシャール・アサド政権)の正統性に関して、各国の政府や機関・団体、個人の間で立場が二極化しており、それどころか内戦終結の既遂の有無に関してすら、彼らの間で統一された見解は存在しないと言ってよい。

しかし現状において、シリア政府は少なくとも国際法上、シリアの全領土に対して排他的な主権を行使することを認められた唯一の主体であり、それだけでなくダマスカスやアレッポ、ハマー、ラタキアといった同国の経済的、文化的な主軸を構成する主要都市を実効的に支配していることから、いずれにせよ同国でもっとも強力な影響力を有する主体であることは客観的な事実である。

したがって当計画書は、シリア政府がおそらくは膨大なマンパワーを割いて作成し、一般公開させるかたちで国連機関に提出した公的書類であることを踏まえても、これまで同政府が国際関係の枠組み、ないしは大国・小国論の枠組みにおいて果たす役割のみへのフォーカスがなされることで、分析対象として見過ごされがちであった同政府の「国家運営能力」そのものを(その結果が肯定的なものとなろうが否定的なものとなろうが)推し量るうえで、極めて貴重かつ有用な資料となっているはずである。

しかし残念なことに当計画書は公開から約4年が経過した2024年3月現在であっても、これまで原文のアラビア語から英語を含む他言語への完訳がなされたことはなく、本邦の東アラブ地域研究においても参照される頻度は非常に低水準に留まってきたという事実がある。

したがって当プログラムを全訳しようという本稿の試みが、現世代における本邦の東アラブ地域研究の深化にわずかながらでも貢献することができるのであれば幸いである。

以下、翻訳にあたっての注意点を記載する。

    • 本稿は当計画書の全訳のうち第一部であり、オリジナルの1~32ページまでにあたる、表題から目次、イントロダクション、エグゼクティブサマリーまでを翻訳の対象としている。
    • 当計画書は和訳した際に「プログラム」(barnamij)、「プロジェクト」(mashru‘)の上部下部構造があいまいに見え、例えば「国家プログラム」(al-barnamij al-watani)の下位に「プロジェクト」が存在し、さらにその下位に「プログラム」が設定されているケースがある。筆者は翻訳にあたって、視認性を優先することでこれらにオリジナルの和訳をあてることも考慮したが、公的文書という特性を考慮して可能な限り意訳を排除すべきとの観点から、これらには一様に逐語訳をあてることを選択した。
    • 訳文の構成は太字や文字色の部分など、可能な限りオリジナルのフォーマットを踏襲することに努めているが、ウェブ公開に適合させるために一部構成を改変した箇所がある。

 

ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム

戦略的計画「シリア2030」

2020年5月

 

目次

    • イントロダクション:基本的な考慮事項とプロジェクトの重要性
    • エグゼクティブサマリー
      1. 戦前から戦時中にかけての数年間の開発状況
      2. 国家ビジョン・目標を設定するための基礎
      3. 2030年におけるシリアの将来的ビジョン
      4. 指導方針
      5. 資金調達と資源配分の基礎
      6. プログラムの実施枠組み
      7. 実施・監視・評価

このレポートの内容は、プログラムの開発にあたった、多数の専門家らや全ての省庁の代表者らを含む作業チームによる成果である。これらの作業は国家計画委員会において指示され、調整され、統合された

イントロダクション:基本的な考慮事項とプロジェクトの重要性

2011年初頭、シリア政府は第11回五ヵ年計画の仕上げに向けて取り組んでいる途中にあったが、戦争の状況とその余波によりプロジェクトの完了は妨げられた。

これに続く数年のなかで生じた急速な変化は、長期的・中期的な計画枠組みに依拠する開発的取り組みのメカニズムから重度に、あるいは軽度に逸脱するような取り組み手段を決定づけた。各プロジェクトの準備と実施に部分的あるいは断片的な形式で取り組む必要が生じたからである。またそれらプロジェクトには調整がなされていなかったゆえに、取り組むにあたっての努力や資源が分散してしまうことが危惧されたからである。

そしてシリア政府は、自身の制度的責任を果たし続けることの重要性に基づいて、時期が適切になった時に、立ち上がった。現実主義に立って全ての努力と資源の最適な利用を保証しつつ、国家開発プログラムの準備・熟成に備えるためである。またシリア政府は、この開発プロセスが戦争以前の状態に回帰することを意味するのではなく、それを越えてより良い未来へ到達することを目的としているという意識・信仰を有している。

「ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム」は、可能な限りの広範な参加によるプロセスを採用しつつ、統合された複数の作業レベルを含む多くの段階のなかで準備された。それは、戦争以前およびその最中にあたる数年間における開発状況を綿密に分析することに始まり、将来のシリアに対する全体的ビジョンや様々な部門がもつビジョン、そこから生じる目的・目標、およびそれらを実現するために必要となる政策や介入手段を描き出すことに取り組んだ。さらに、これらの目標、介入、ビジョンの達成に資する各種プログラム・プロジェクトの集合体を設定した。

本プログラムを準備するための方法論的アプローチは、直接的には、様々なビジョンをレビュー・調整すること、さらには歴代のシリア政府が実施してきた全ての努力の活用を増強すること、またプログラムを準備するにあたってそれらを活用し、豊かにし、採用することによって開始された。同様に、全体としての「マクロ的」範疇から、プログラムの統一性、現実主義、適用可能性を保証するような調整済みの部分的なメカニズムへと移行することに主眼が置かれた。

このアプローチは同様に、「その諸制度が継続することを許してきた最大限の堅固を誇り、かつてその強固さとショックを吸収する能力を示し続けてきたシリア国家が、今日、戦争の直前まで前進していた開発を体よく復活させるという課題に直面している」という現実に端を発するものでもある。シリアはその戦略的立ち位置を維持し、その人々と栄華を構築し、その歴史を保ち、過去から得た教訓を、未来を築くための利益へと変えるための現実に到達することが求められているのである。

さらに、完全な青写真を作成するため、シリアの事例に多かれ少なかれ類似する破壊的状況が発生したいくつかの国家が経験してきた再建について書かれた複数の文献のレビューが行われた。こうした情報に耳を傾けることで、そのポジティヴな側面の活用、あるいはその欠点・弱点の回避を可能とするためである。またここでは、「それらの国家の成功体験をレビューしそこから情報を得ることが、シリアのケースにおいてそうであるように、それを即座に適用することを意味していない」という前提が考慮されている。「国際システムによって援助や資金提供を受けている国家における再建」と、「国際システムそれ自体が敵であり紛争当事者であり、再建を妨害するどころかその破壊に貢献しているような国家」における再建は全く異なるのである。

本プログラムは、その開発的アプローチのなかで再建に向けての拡張された概念を採用した。これは包括的かつ長期的なプロジェクトを立案するうえでの政府の継続的な能力を表しており、持続可能な開発をめぐる政府の包括的展望のなかに再建プロセスを組み入れることが可能である。またそれは戦争に苦しんだ現世代の人々の利益だけではなく、シリアの将来の世代の人々の利益を考慮に入れるものであり、物理的再建だけではなく、それを越えて人間を、そして持続可能な開発を実現するために必要な諸制度を構築することを目標としている。

本プログラム・ドキュメントは、「シリア政府の既存の​​制度的構造が全ての責任をもって開発的問題を管理することを意図している」ということが「(シリア政府が)諸制度の弱点を認識していない」ことを意味するわけではないという事実に着目した。むろんこれは戦争だけに起因するものでなく、様々な政策を立案・実施するにあたっての制度的思考に生じてきた欠陥の蓄積によるものでもある。そのため本プログラム・ドキュメントは、課題を機会に変えるために現行の諸条件を活用することの重要性に言及した。そしてその目的は、政府が担っている制度的開発に向けての真のステップとして、制度的価値観および制度的思考の「新たな世代」に到達することにある。

本プログラム・ドキュメントは、制度的な各役割を次なる段階における全ての参加者に明瞭なかたちで分配すること規定した。この分配の模範的手法とは、過去に蓄積され、開発の再生への真の貢献に向け各制度の能力を高めるような制度的経験則に依拠しつつ、シリアにおける各制度の自然かつ慣例的な役割、そしてそれを実施するうえで課される任務に回帰することである。

本プログラムは、理論的・応用的観点における包括的な複数の側面をともなう開発的アプローチの体をなしている。すなわち、経済、社会、環境といった、開発がおよぶ様々な側面が密接に結びついているため、とりわけ全般的あるいは限定的な目標に取り組むにあたって、部門別に断片化されたアプローチに依拠することはしていないのである。本プログラムのアプローチは、(1)「生産量および生産性の向上に全員が参画すること」に依拠している。この場合の参画は、生産、交換、消費における意思決定メカニズムに対するものであるか、または生産、交換、消費の過程に対するものであるかを問わない。さらに(2)「これらの過程がもたらす収益に全員が公平に参画すること」に依拠している。

本プログラムはコストのほか、既存のあるいは必要な物的・人的資源の正確な見積もり、あるいは様々な段階におけるそれらの開発に関連する問題をなおざりにしていない。同様に、関連する諸機関が資源の割り当てにおいて果たす効果的な役割、その効率的な利用、プログラム、プロジェクト、およびプロセスの実施を支援する法律や法体制の開発に力点を置いている。

計画立案プロセスはダイナミックかつ更新可能な性質にその特徴をもつため、本プログラムの準備は、最新の進捗に随行するための実施プロセス、フォローアップ、観測・評価、必要に応じた修正によって後続される最初のステップである。

本プログラム・ドキュメントは実施に向けての包括的枠組みとなる様々な構成要素を備えている。その枠組みは測定や評価を受ける余地があり、プロセスの進捗具合や全般的な情景の変化に応じて調整を加えられるために必要な柔軟性を有している。しかしそれはいかなる場合においても、本プログラムがその全般的ないしは詳細な枠組みによって表現する主要な目標における断念ないしは延期を意味するものではない。すなわち、――本プログラムが承認されたのちに――設定された目標の実現に多くの年数を要するとの口実のもと、その目標に相反する短期視野的決定の実施にあたることは避けられるべきである。

したがって、本プログラムがその目的の実現に成功するために必要な条件は次のとおりである。(1)本プログラムが、実施の進捗に応じて修正される余地をもつ、シリア国家の統一計画として採用されること。(2)本プログラムが、政府が政策や投資計画を立案するうえでの「共通言語」として、また様々な部門において綿密な調査を実施するうえでの「典拠的枠組み」として採用されること。(3)本プログラムを出自とする各計画の項目が全般的かつ詳細なプログラム的枠組みに則った特定の経路に沿うかたちで実施されること。そのほか必要に応じてプログラムの修正がなされる際には、効率と有効性の原則に則った、目標達成に資する手法によって、ビジョン、目標、政策、介入におけるプログラム内の各項目の均整を保つことが念頭に置かれる。

「ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム」のドキュメントは、シリアの未来を描き出すという作業を、生まれながらにしてこのプロセスを担っている場所や人々以外のところに移し去ることを目的とした全ての試みに対し、シリア政府がとったリアクションである。したがって本プログラムは、勝利を実現したシリアの社会が、その未来を描き出し構成する完全な権利を有していることを伝える、国外に向けたシリア国家のメッセージである。

エグゼクティブサマリー

「ポスト戦争期におけるシリア国家開発プログラム」は、2030年やそれ以降に向けてのシリアの戦略的開発計画であり、次なる段階におけるシリアの光景を描き出すことを目的としたシリア政府の意図および意識的計画を示すものである。

本プログラムは、戦争からの脱却とともに現行のあるいは将来の課題に立ち向かうこと、また持続可能性を保証し、将来の世代が自身らの開発的利益を実現する能力を確保することを目指しつつ、経済的、社会的、あるいは集団的構造に求められる構造的変革を導入・統合することを目的としている。すなわち本プログラムは、社会の活動を回復し、安定を実現し(地域的かつ緊急的なニーズへの対応)、開発的持続可能性の基礎を置き、2030年までに設定されたビジョンを、それらの経済的、社会的、環境的決定事項において、およびそれらの部門的(開発的結びつき)、地理的(統合あるいは地域開発)、時間的(回復期から持続可能性への移行)側面において実現することを目的としている。

本プログラムの一般原則は、統一されたシリアの将来に対する国家的な所有権を確認することを基礎としている。同様に、国家制度の能力と効率を強化し、国家の利益を実現する目的においてその資源・可能能力の方向性を決定し、社会正義、社会的結束、国民的アイデンティティ、帰属文化を強化し、法の支配を保証し、国家の全ての構成要素において経済的・社会的安全を実現することを目的としている。同様に、経済・社会における全ての開発的要素を部門的ないしは地理的に前進させ、開発面での不均衡を是正し、シリアにおける最大限の国家的・国民的利益に配慮しつつ世界における効果的かつ意識的な統合を実現するために、戦争によって生じた開発の停滞の状態から、社会および経済が有するエネルギーの段階的開放の状態への移行を実現することを目的としている。

本プログラムの実施は次に示す主要な4段階を通じてなされる。

第一に、「救済の段階」である。そこでは基本的なニーズに応えるために生産体制の強化がなされ、各インフラが訓練され、損失・損害の程度が算出され、政策および計画を策定・修正するための情報収集がなされる。第二に均衡を復旧するための「回復の段階」である。そこでは想定可能な外的・内的資金調達手段(量的緩和策ないしは負債による資金調達)が利用され、同様に生産チェーンを修復するためのプロセスが実施される。このプロセスの対象はもっとも広い視野において生産プロセスを復旧させるために必要なインフラ(特にエネルギー、輸送、水)に焦点をあてつつ、「もっとも安価かつもっとも緊急性の高いもの」に始まり、以降「もっとも高価かつもっとも緊急性の低いもの」へと移行していく。次に、シリア経済の統合的様相をあらたに描き出すことを目的とした「再生の段階」である。そこでは同様に、付加的価値を産出する体制を形成するためのプロセスの加速が試みられる。最後に、「開発の持続可能性の段階」である。そこでは現代シリア経済のアイデンティティの形成が完了され、様々な側面(部門、地理、人)に対する開発の持続可能性を担保する目的において政策とメカニズムの設定がなされる。そこでは同様に、政治的、経済的、制度的、社会的な様々な側面を結合することに焦点が置かれる。ただし、これらの段階においては状況に応じて作業の重複が生じうることに留意されたい。

本プログラムは互いに結びついた5つの軸から構成されている。

①制度改革と公平性促進の軸

この軸は以下の諸問題を取り扱う。ポスト戦争期のシリアへの移行を汚職の現象から保護すること、公平性と透明性を強化すること、司法制度と監視制度を改革すること、強力かつ効果的な制度を構築すること、行政を発展させること、公共部門に経済改革を実施すること。

②インフラおよびサービスの開発と近代化の軸

ここでは次の各部門に関連する問題を取り扱う。水、衛生、固形廃棄物、住宅、建築・建設、電気、輸送・交通、通信など。これらの部門においては、停滞状態、緊急事態、段階的に延期されうる状態を含む現状が迅速に評価され、こうした状況を是正するために、必要な目的、プロジェクト、手順、介入の内容が、実施のタイムスケジュールとともに策定された。

③成長と発展の軸

この軸ではシリアの危機がもたらした経済的余波に対処するための経済的再生に関する問題が扱われ、次に貧困、失業、不平等を根絶する持続可能性の実現に至るためのシリア経済の開発的経路への再配置に関する問題が扱われる。これら全ては、戦争によって生じた格差を是正するための国際協力プロジェクトを活用しつつ、社会のすべての部門・グループが参加する共同参画型の枠組みのなかで考慮される。

④社会的・人的開発の軸

ここでは以下の3つの主要な導入口を通じた問題が扱われる。意識、教育、国民的アイデンティティ、社会的結束に関連する問題に加え、教育における様々な学年・カリキュラム・内容の構造の再検討、教育界と労働市場の繋がりの強化、シリア的共同体の構築、不信心的・宗派主義的・分離主義的言説に対抗するための啓蒙された宗教的・文化的言説に焦点を当てた文化的・教育的な導入口。次に、シリア危機の影響をもっとも深刻に受けた各集団の経済的・社会的な活動サイクルへの統合、また国益に資するかたちでの帰還者の祖国受け入れに関連する問題にならび、地域・県の役割をめぐる新たな開発的ビジョンのなかで試行される、国内避難民・難民の帰還に関連する問題を取り扱う社会的・経済的統合の導入口。最後に、労働市場の基本的な3つの構成要素(雇用、失業、ディーセント・ワーク)にならび、社会福祉的構成要素(教育、健康、飲料水・衛生サービス)、社会保障的構成要素(支援、人道的ニーズ)に焦点をあてた社会保障への導入口である。

⑤国民対話と政治的多元主義の軸

ここでは国民的利益のほか、シリアの構築、治安・安全の強化、国民対話の持続可能性および成功に向けての適切な環境作りに加えて、社会的結束の促進、国民的な所属・アイデンティティ、国家の価値観に適合する集団的意識レベルの強化をめぐる国民的利益の役割に関する問題が取り扱われる。したがって、この軸は社会的・人的開発の軸と密接に関連しており、シリアにおける民主的プロセスの統合や政治的多元主義の統合に資する複数の手法を提供するものである。

本プログラムは、いずれの段階がそれ以前の段階の成果に従って構築されている連続的ステップに基づいて設置された。作業はマクロレベル、部門レベル、地理的レベルでの開発状況を分析・評価することから始まった。ここには戦争以前の2005年~2010年の期間中の各指標およびそれらの開発状況の割り出し・分析を行うことに加え、2011年~2018年までの戦争期間中にこれらの指標に及んだ損害(物理的な、あるいは開発面での)の分析といった作業が含まれる。次に国民的ビジョンと長期的戦略目標が設置された。ここではシリアの様々な分野における経済的・社会的な望ましい未来の風景の描き出しや、こうしたビジョンの実現に向けての開発的経路、すなわち主要な着眼点や出発点、ビジョンの実現に向けた取り組みが直面しうる課題、開発的プロセスにおいて活用されうる機会などの策定がなされた。その後、指導的方針(ガイディング・ポリシー)の策定がなされた。これはプロジェクトの様々な段階に従って、設定された目標に到達するために、それらの目標と必要な各実施プログラムを結びつけることを目的としている。次のステップにおいては、本プログラムの全般的な目標に沿うかたちで時間的期限を共にする特定の目標を課されたプログラムおよびプロジェクトの一連が設置された。それらはその他の付随措置にあたりながら、論理的な順番(短期的には停滞状態や緊急事態に対処し、ビジョンと長期的目標の実現の観点から一時的に延期されうるケースについては、長期的な視野からの対応を行う)に従って目標を達成することを目的としている。それらはその後、枠組みプログラムとそこから生まれる主要なプログラムとともに、各プログラムの内容や実施に関わる関係当事者の設定を含む実施枠組みのなかで具現化された。その後同様に、プログラムの実施に必要な2030年までの資金調達要件の試算がなされた。

戦前から戦中にかけての数年間の開発状況

A-経済開発

マクロ経済の観点からは、戦前のシリアは一定の成長率を実現した。同様に国民経済の構造的構成がわずかに改善し、質的要因(全生産要素)の寄与率には著しい改善が見られた。民間投資のレベルは、主要な県および部門(金融、保険、不動産)に集中しながらも改善された。外国投資は限定的であり、石油・ガス部門に集中した。一方公共投資は減少しただけでなく、シリアの各県間でそれを公平に分配するシステムが存在しないがゆえに、社会福祉部門および公益事業部門に集中した。財政部門および金融部門では、石油以外に関連する税収が増加し、公共部門の各企業の収益が石油収入を代償として改善したため、国家の公的歳入の構造的構成に変化が生じた。特に民間部門については、国債の額が減少し対企業補助金の額が多大な増加を見せたため、国家予算にとっての大きな負担が生じた。また対外為替レートでは安定が維持され、インフレ率は許容可能な範囲に留まった。名目金利は安定しており、 対民間部門の銀行融資のほとんどは商業部門および不動産部門に対して実施された。対外貿易については、輸入額の増加が経常収支の不安定化をもたらし、輸出は付加価値の乏しいいくつかの商品・市場に集中した。雇用と労働市場については、失業率は依然として高目に留まり、最大の雇用者はサービス部門であった。被雇用者のなかでは、銀行、保険会社、通信業者といった主体が市場に加わった結果、大学の学位取得者の割合が軽微な増加を見せたのに対して、その最多数は初等教育の学位取得者であった。

しかし戦争の結果、国民経済にはマクロ経済指標の悪化、特にGDPの悪化を筆頭とする大きな後退が生じた。経済成長率は急激に低下したうえ、公共部門のGDPへの貢献の度合いは増加したものの、生産の構造的構成に生じた本質的な変化とともに、民間部門の貢献の度合いはわずかに低下した。また農業、産業、貿易、観光による政府サービス、輸送、交通、倉庫部門への貢献の度合いは低下した。また公的・民間投資額が急激に減少したうえ、外国からの投資はほぼ完全に引き上げられた。さらに生産性に関する指標が低下した。財政および金融のレベルでは、国家歳入が減少し公共経済部門に属する各企業の黒字額が減少し、経常費用が増加(援助・給与の要求額の増加)した結果、国家の全体予算に大幅な赤字が生じた。投資支出額は第一に政府サービス、電気、水道に充てられることによって減少したのに対し、公的債務、特に対内債務(中央銀行からの債務)の高は増加した。またこれは、生産部門の成長(より正確には後退)に見合わない通貨供給量の増加へとつながった。

さらに輸入石油派生品や日用品の請求額が増加し、投機的な動きや国外通貨の密輸が活発化したのに対し、為替レートは急激に悪化し、特に石油業、観光業において商品・サービスが生む対外収入が減少した。こうした現象には為替レートの安定化に向けた明確な金融政策の欠如がともない、したがって外貨準備の摩耗へとつながった。また生産部門への預金の量が増加したにもかかわらず、貿易や不動産部門に関するものとは異なり、これらの恩恵が銀行施設に向けられることはなかった。また当該期間中、インフレ率は記録的なレベル(ハイパー・インフレ)にまで達し、国民の生活水準に悪影響をもたらした。

対外貿易においては、貿易赤字が拡大したことにより経常赤字額が拡大した。合理化政策の採用やサービス項目の赤字拡大に応じて輸入が縮小したにもかかわらず、品目数の限定化や相手国の減少によって輸出が弱体化したためである。また収入勘定項目は黒字を記録した。これは同項目が一方的な制裁の結果として参入した複数のサービス契約会社に関連しており、在外のシリア人労働者による送金額の増加によって現行の送金勘定項目の黒字が拡大したためである。また海外からシリアに提供され国内のNGO団体の手に渡った助成・援助金の存在も黒字に貢献した。

雇用については、失業率が大幅に増加していることが見てとれた。最大の雇用者はサービス部門であり、貿易、観光、産業、建設、建築各部門がそれに続いた。被雇用者の最大の割合を占めたのは初等教育以下の学位の所得者であり、もっとも高い雇用率を有している県は同時に最大の失業率を記録していることが明らかとなった(アレッポ県、ダマスカス郊外県)。

経済部門に関しては、加工産業における生産量の成長は不安定さと極端な揺れ幅によって特徴づけられた。その貢献度は低く、いくつかの年においてはマイナス収支ですらあった。シリアの産業は主要な県に集中しており、歴史的な観点から非伝統的な地域は投資を引き付けることができなかった。戦争の余波は加工産業に対する重大な影響として現れ、民間部門における産業経済活動が衰退したことにより、問題を悪化させた。また、これにともない公共部門の一部機関が依然として活動を継続したことにより、製造部門の雇用指標に関連する問題が悪化した。また同部門における労働者の質的性質の改善が起こらず、熟練・有能労働者の漏洩という現象が生じる事態となった。また、これまでに蓄積されてきた付加価値という観点からもっとも多大な戦争の影響を受けたのが食品産業であった一方、衣料品、靴、皮革産業への影響は限定的であった。

農業の成長率は不安定であり、これに起因する問題が悪化、さらに家庭における食糧支出が増大した。畜産製品における自給率は維持されたものの、農業製品の自給率は低下した。農業部門への民間投資額は低水準のままであり、戦争中の数年間には著しく減少した。公共投資は、農業生産の効率の改善を目的とする各プロジェクトに集中しつつ、一定の成長率を記録した。戦争は水・土地資源の利用管理に関する問題を悪化させ、国有地、森林地帯、砂漠地帯への侵犯は増加した。また休耕地と耕作地の面積は全体的に縮小した。

観光に関しては、戦争の余波により同部門の指標が悪化した。また戦争は、同部門の国民経済開発への貢献の度合いに負の影響をもたらした。また同部門の衰退は、観光関連の投資・サービスの地理的分散によってさらに深刻化することとなった。この悪化につながった更なる原因としては、観光スポットにおける基本的なサービス提供の欠如、観光機関のパフォーマンス水準の低下やマーケティング・宣伝広告水準の低下に加え、未登録の家具付きアパートの大規模な乱立、観光に対する国内需要の低水準、行政・計画・法的整備の不足、および検閲当局の多さ、観光客の要求を満たすサービスの不足が挙げられる。同様に、海岸、河川、湖の水質の汚染、遺跡へのいたずらや侵入、森林や自然保護区における伐採、そして丞有地への侵犯行為も理由として挙げられる。

エネルギーに関しては、石油・ガスの生産を増加させるために努力が払われたにもかかわらず、シリア派エネルギー充足の段階あるいはエネルギー資源活用における理想的効率の段階に到達することができなかった。戦争は生産および輸送のプロセスに負の影響をもたらしたが、同時に、原油を輸入・精製することによって、製油所における原油供給量の急激な減少分を部分的に補うことは依然として可能であった。機械・設備のスペア部品を海外から入手するにあたっての問題や、石油派生品の運搬業者を見つけ出すうえでの困難はより深刻化した。さらに公共部門の企業では、負債・債務が増加し、技術的な経験に富んだ一部の幹部層が国外に流出した結果、財政的な困難が増大した。

電力部門に関しては、戦争状態によって発電量は電力需要とともに低下し、往々にして配給政策の実施へとつながった。電力部門は多くの困難に苦しんだ。その一例としては、電気システムとその個々の要素を開発し、それらの運用コストをまかなうために、十分な流動資金を提供することを目的とした同部門への直接支援に関する問題が挙げられる。さらに同部門が被った多大な物理的・経済的損害に加え、技術的・商業的損失や違法配線の増加、エネルギー源の非多様性、再生可能エネルギー活用の限定性、省エネルギーあるいはエネルギー効率の向上を目的とした政策の欠如、実質コストを計算するための会計経理システムの欠如といった問題が確認された。

情報通信部門は、戦争の影響、技術的課題、制度的課題を含む3つの主要な課題に対応することができたが、被った大規模な損害に代表される多くの問題に苦しんだ。それらの例としては機材やソフトウェアの入手困難、通信サービスの停止や特に緊張化地域における非計測に起因するトラフィックの減少がもたらした収益低下、提供されているパッケージ群と情報アプリケーションの成長速度の非対応性、インターネット料金の値上がり、携帯通信料金の値上がり、政府各局における脆弱な情報ガバナンス体制、技術的・テクノロジー的側面を備えた契約システムの情報通信プログラムへの不適合性、政府系ITイニシアチブや情報プロジェクトの実施の遅延、専門知識の欠如などが挙げられる。また中央集権型の手法を採用しており、変更を受け入れるにあたっての十分な柔軟性を持たない予算監視システムも問題の一因をなしている。

運輸部門は戦争状態により著しい影響を受け、その全ての指標を低下させた。同部門では多くの運送会社が衰退したうえ、広範囲にわたるインフラの破壊がもたらされた。また戦争期におけるシリアの輸送は、主要な単一軸(南北軸)に依存していた。さらに輸送車列の技術インフラの旧式化、清潔な環境での輸送を行うためのインフラの欠如、運用・保守コストの高水準、スマート・テクノロジーや最新技術の非活用性といった問題が存在するほか、自身の業務が商品の輸送・清算プロセスと相互干渉しあうような様々な当事者(農業、獣医、税関など)の間での調整作業の欠如や、幹部層の怠慢や人材の漏洩といった問題が確認された。

住宅供給部門は、大規模な損害やとプロジェクト実施レベルの低下に苦しんでいる。公共部門はこの分野において望まれた役目を果たしてこなかった。また民間部門の役割には組織的なかたちでの活性化がなされておらず、この状況はいまだ限定的な役割しか持たない住宅協同組合部門についても同様である。また公共・民間における投資支出額の減少、不動産ローンの低水準や融資利息の増加、多くのプロジェクトにおけるプロセスの遅延や鈍化、あるいは一部における停滞といった問題が存在することから、国家による住宅戦略の実施状況は理想的とはいえない。同様に、必要な土地の供給可能性、地域計画の実施遅延、組織計画の作成遅延、物件取得手続きの長期化に関する問題が確認された。住宅供給部門の問題は、戦争が同部門のインフラに多大な影響を及ぼしたため、それが続いた数年のなかで深刻化した。またその背景には、建材の価格が不安定さ、住宅コストおよびその投資価格の上昇、建築請負部門における脆弱な実施技術およびそのレベルの低下に加え、個人による、民間部門への効果を持たない貢献の継続などが存在する。さらに、建築・塗装の動態を詳細に映し出す、包括的かつ体系的な住宅データベースが存在しないことも要因の一つである。

B-社会開発および人間開発

戦争が始まる前、人間開発の取り組みは、国民の平均寿命の改善や彼らが享受する健康、教育、サービスの質的改善に表れているように、大きな成功を収めた。しかしこれらの成功は、シリアにおける人間開発のいくつかの側面、特に「人間開発指数による国順リスト」においてシリア順位が引き続き下落していることに関連する不足点を隠すことはなかった。

危機はシリアにおいて、インフラと人材といった人間開発の物質的・非物質的要素に対し様々な損害を及ぼした。そしてそれは国民のアイデンティティを歪曲し、様々な不正や攻撃、あるいは意識的な文化形成や国家の不動性の妨害によって、国民の尊厳を侵そうとする試みの拡大をもたらした。このようにシリアにおける人間開発の経路は、1000もの開発目標を達成するために構想されていた内容から遠く離れたものへと逸脱し、数十年にわたって蓄積されてきた多くの成果は失われてしまった。

人口については、プログラムは人口増加率を低下させることに成功せず、家庭が子供を持つ傾向にあったため総出生率と普通出生率が上昇した。また戦争は人口構造に暗い影を落とし、具体的にはその最初の年齢層にあたる0~4歳、次にもっとも活発に出産活動を行う15-49歳の年齢層が多大な影響を受けた。県間・同一県内での大規模な人口移動、海外移住が発生した結果、人口バランスに関する地理的分布の問題が悪化した。同様に、県内の人口が増加ないしは減少することによって、その行政区分に対する変更も生じた。多くの避難民が集まる地域で生じた人口密度の増加は、サービスやインフラへの多大な圧力をもたらし、望ましい住宅を確保することを難しくした。

保健部門は戦争により多大な損害を被った。これらは保健インフラや保健部門の必需品への被害といった補償可能な損害に限ったものではなく、人的被害を含むより大きく深い損害も生じた。このために国内の死亡率はいまだに上昇し続けており、様々な専門分野における医療専門家たちが国外への移住を促される事態が生じている。また国内で製造されていない一部の医薬品、あるいは生産工程のなかで必需品の輸入を必要とする医薬品に多大な影響を及ぼした経済制裁の結果、国内製造の医薬品の普及率が低下した。さらに医薬品の輸出先となる国家も減少した。同様に、シリアにおける保健支出は、公共支出の減少と個人支出の増加によって特徴づけられた。この背景には公共部門に属する医療施設の減少、高まる人口増加率に対応するにあたっての脆弱なキャパシティ、民間健康部門に属する総合・専門の病院・クリニックの発展といった要因が存在する。

社会保障に関しては、特にもっとも脆弱な社会集団、あるいは危機の影響をもっとも顕著に受けた社会環境のなかで、危機が発生する以前にはもっとも低水準で存在していた社会現象の拡大が確認された。これは食連安全保障の欠如、暴力、児童婚のほか、国内避難民の発生に関連する問題である。また政府支援に関する問題への対応の水準は引き続き部分的かつ限定的であり、健康保険の対象者の数もわずかなまま留まった。一方民間部門の労働者については、健康保険の受益割合の明らかな欠如が見られた。マイクロ・ファイナンスサービスの普及も乏しいままであった。脆弱な集団の範囲が拡大し、戦争状態はこれらの集団に対するサービス提供を担っている既存の諸機関に影響を与えた。それらの多くが攻撃・妨害を受けたため業務を停止し、あるいはその一部については一時的な滞在施設としての機能を担ったためである。ディーセント・ワークについては、特に健康保険、失業、最低賃金に関して変化は生じなかった。また社会制度は包括的ではなく、以下の観点からさらなる開発の必要が生じた。対象範囲の拡大(特に組織化されていない民間労働者に関して)、コンテンツの多様化・拡大、あらゆる形態の社会保障を含んだ普遍的かつ単一の枠組みを形成するための制度的根拠の統合。

教育・学術研究に関しては、戦争は教育における量的および質的な内的効率の低下に加え、一般的な面では教育システムがもつ外的効率のレベル低下をもたらした。学術研究については、学術系文献の出版数に変化は見られず、研究者の数は特に医学分野と工学分野において減少したものの、人間科学分野では大きな減少は起こらなかった。シリアにおける学術研究への支出額はわずかであり、また民間部門では研究開発活動が行われていないことは注目に値する。

文化形成の面では、文化は、開発を促進しその成功への触媒となる文化的・社会的構造の構築において、肝要な役割を果たしていない。つまり、国内・国外雑誌に掲載された学術文献数から、出版・翻訳された書籍数、発明・特許数、文学・芸術作品数、学問や技術の活用数に至るまでの指標が、知識を富に変えることから我々がいまだ遠いことを示している。また危機によって生じた密輸、窃盗、密輸品取引、違法な収入手段に含むネガティヴな素行・行動は、労働、生産、職業の熟達、個人・集団による創造に関する価値観と相反するものであった。

環境に関しては、全ての人への環境面で安全な生活条件の提供、天然資源の枯渇・汚染への歯止め、関連する国家部門との正確な調整、公共での環境意識レベルの向上、環境分野に携わる幹部層の能力開発などに関連する多くの課題が存在した。また環境悪化によるコストは上昇の一途をたどっており、天然資源は不自然な摩耗をみせている。

上水・下水については、各市中心部で戦争が繰り広げられるなか、上下水ネットワークにアクセス可能な人々の割合は、郊外部においてわずかな低下が見られたものの、安定していた。また現在に至るまで、飲料水サービスはほとんどの地域において安価でアクセス可能である。しかし水資源の損失が拡大したことにより。飲料水の一人あたりの実質割り当て量は減少した。水・下水部門は中央労働法の継続、下水処理を担う機関の数、部門内の業務の組織化あるいは相互調整の欠如、水資源の配分問題における明晰さの欠如に加え、排水再利用の管理に関連する多くの課題に直面した。さらにこの分野における民間部門の役割が脆弱であることや、同部門があらゆるかたちで参画するうえでの十分なガイドラインが存在しないこと、質的成果を考慮しないままに量的成果が重視されていることなどが問題として挙げられた。

固形廃棄物に関しては、シリアはこれらを収集、輸送、処理、活用するための完成されたシステムの欠如に依然として苦しんでいる。ステーションやプラントは損傷や妨害に晒され、固形廃棄物を管理するための国家計画は中断を余儀なくされた。この部門は、輸送センターおよびステーションを稼働させるために配備されている設備の数が実際の需要に見合っていないことに起因する、低水準のパフォーマンスを特徴とした。またこれは、固形廃棄物の管理に向けた制度的枠組みが、それを管理、投資、運営する独立主体が存在しないために脆弱であることにも起因した。

土地の劣化・砂漠化に関しては、気候変動とそれに続く干ばつ、人口圧力、農用地の保護を目的とした組織的な計画実施の欠如によって問題は継続している。さらに、戦争によって引き起こされた、原始的な手法による石油精製や森林や木々に対する不正な攻撃を含む環境破壊行動も悪化の要因として挙げられた。

大気汚染に関しては、公共のプロジェクト・活動が課している環境保護要件への違反や、戦争以前から支配的であった伝統的な手法による廃棄物処理がなされた結果、空気の質は悪化した。またこれらのファクターは戦争によって生じた状況とともに悪化し、深刻化した。

貧困・食料安全保障に関しては、戦争はその過酷かつ一般的な特性により、貧困率の増加に貢献した。相対貧困ラインの下で暮らす人々の割合が上昇し、食糧安全保障の欠如に苦しむ家庭の割合は増加した。ただしこれらの割合は県によって異なる。

C-バランスの取れた開発

開発の地理的不均衡は、戦争以前のシリアにおけるもっとも重要な開発的問題の一つであり、経済活動の一部の県・地域への集中に加え、各地域間では人間開発指数やインフラ指数の極めて明白な格差がみられた。この欠陥は主に、シリアにおいて各県に対する中長期的な計画が存在しないなか、地元の開発計画が年間予算に極めて近い年間計画に依拠していることに起因した。また2011年には計画・実施のプロセスを活発化し、地方自治体により広範な役割・権限を付与することを規定した法律第107号が発布されたにもかかわらず、シリアで発生した戦争のため同法律の条項を実施する余地は失われた。同様に、地域開発計画の欠如は開発格差を深め、各土地の特性の活用体制を弱めるうえで大きな役割を果たした。また戦争は、各県・地域間の開発格差を壊滅的なまでに高め、開発のバランスを調整しようとする将来的な取り組みに大きな負担を残すこととなった。開発の要項にもたらされた破壊の規模は県によって異なる。シリアの県は開発に関連するデータや指標を明確に欠いており、いくつかの県については、そこにおける損害をリスト化し、経済開発や人間開発の指標を計測するためにアクセスすることさえ困難な状況にある。

D-国際協力

戦争は国際協力関係に特定の状況を課し、2011年から2015年までの間、国際協力関係はその全ての軸において後退・停滞した。シリア中央銀行の資産は凍結され、それとの取引の禁止は禁止された。さらに各当局、企業、業者が行った業務の対価を支払うため、あるいは国際機関において国家が負っている金銭的債務を支払うために必要な財政移転を行うことも控えられた。さらに国際機関において投票権を含む国家の権利のいくつかがはく奪され、協定、了解覚書、議定書が停止された。これらの一方的な強制措置の結果、二国間協力の体制に悪影響がもたらされたためである。国際機関との協力体制は、開発分野における協力体制の枠組みから即時の救援活動へと変化を遂げ、多くの組織が許可を得ないままシリアに直接的かつ不法に入国した。これら全てのほか、国連とその傘下機関の作業プログラムの政治化が行われ、これは国際機関との協力に一般的な影を落とす信頼の低下へとつながった。またシリアはこうした事実もかかわらず、救援物資の提供に携わる組織の活動に対する国家的支援・監督、保健部門、医療サービス、全国ワクチン接種促進キャンペーンへの支援、学習・教育活動の継続への支援、苦境に置かれている人々に対する飲料水や清潔な水の提供への支援などを通じて、危機や緊急事態における人道支援活動の強化・調整に関連する国連決議を遵守してきた。

国家ビジョン・目標を設定するための基礎

シリア人による社会・経済の理想的な形態に到達するための開発経路を基礎づけるためには、将来における一般的な展望を示し、シリア国民の目標と願望を明白化し、シリア国家の経済的・社会的アイデンティティを表現する明確なビジョンの存在が不可欠である。またこれは、開発の再生プロセスがその持続可能性を担保する異なる視点によって辿り、戦争の余波や影響からの脱却を促し、これから数年間の開発経路のための共有された枠組みを提供する道筋に焦点を当てるものでもある。このビジョンの重要性は、それが共通の、望ましい、現実的な、そして実現可能な未来の姿であるという事実に起因している。さらに、それは新たな社会的・開発的手段に基づいて揺るぎない開発契約の傘を構成し、シリアの人々の望みを浮かび上がらせ、国家が持つ全てのエネルギーと可能性を望ましい姿の実現に向け方向付けるものである。

このビジョンは2つの基礎的支柱に基づいている。一つ目は、未来の論理に従って立てられた柱であり、そこでは開発上の不備を是正するための出発点が、政策を導き、その方向性を決定し、何を修正し何を強化すべきであるかを教示する未来の目標の設定であるべきだと信じられている。二つ目は、シリアの未来が、経済的、社会的、政治的な幅広い担い手に加え、様々な構成要素の手に掛かっているという事実を提示する柱である。そこでは、それらの構成要素は、ビジョンや持続可能な開発の構築に向けて動き始めることを期待されており、現行あるいは未来のいかなる計画が耳を傾けるべき潜在的な主要アクターとみなされている。

このビジョンが依拠した基本的な出発点とは、シリアの統一、価値体系の構築、そしてシリア・アラブ共和国政府が署名・承認した国際協定の数々である。それらの協定の内容は2012年シリア憲法に加え、国連のポスト2015年開発アジェンダ(持続可能な開発目標)のなかに記載されている。

国民的ビジョンおよびそれに関連する目的、目標、政策を設定するための手法は以下の要素に基づいている。

    • 国民経済が苦しんでいるマクロ的、構造的、開発的な障害を是正するためのマクロ的、部門的、空間的な連携。
    • プログラムの全ての段階において、戦略的焦点を当てるべき段階および軸を確定すること。救済の段階においては、安全保障と安定を維持するための条件、難民・国内避難民の安全かつ自発的な帰還のための条件、必要なインフラを再建し生産活動を再開させるための条件を確保することに加え、損害を受けた人々の経済的および社会的再統合、食料・水・エネルギー関連の安全保障の提供に焦点が置かれる。回復の段階に向けては、組織的環境および立法的環境の整備が進められている。同段階において焦点が当てられるのは、実際の生産部門、中・小規模プロジェクトの開発、労働市場の改革、ディーセント・ワークに関する基準達成、金融サービスへのアクセス、生産インフラの効率性・適格性の向上、支援政策の改革である。再生の段階においては、各部門間の連携体制の強化、スタグフレーション対策、シリア製品における技術的な物品の割合を高めることへの関心、世界的な知識経済への統合、マクロ経済におけるバランス改善、経済成長と人口増加のバランスを維持するためのメカニズムの開発に焦点が置かれる。開発の持続可能性の段階において焦点が置かれるのは、経済成長の持続可能性および包括性の確保、雇用、公平な分配、各世代の権利の保護である。これに加え、各制度の運用体制やその実施者を開発することを目的とした制度上の行政改革をめぐる問題に対し、十分な重要性を付与することに力点が置かれる。
    • プログラムの各段階における目的および段階的目標の策定
    • 連携体制および様々な当事者の役割:計画策定、実施、評価における連携の原則に基づいて、全てのアクターに対して責任が分配され確定された。一方中央政府は「安定の回復、治安の維持、法律の施行、復興の計画・プロジェクトの準備段階における指示、持続可能な開発を達成するために求められる法体制・規制体制の提供、開発軸の形成、投資の促進、民間部門との連携体制の構築、バランスの取れた地方開発の実現、環境の保護、競争条件の確保、独占の防止」に対して責任を負う。地方当局は「地域開発部門の損害・損失の見積り、地方分権化にかかわる国家計画の促進、全ての県における地域開発計画の策定、地方で提供される経済的・社会的サービスの水準の改善、天然資源の保全、土地の管理・分配」に対して責任を負う。さらに民間部門については、「経済部門・サービス部門の再建に貢献するための多くの基礎的な役割」が割り当てられたほか、「投資・生産の増大、県の歳入への貢献レベルの改善、法律の順守、社会的責任の一端を担うこと」などが求められる。一方非政府系部門および市民社会組織の役割は、「被害を受けた各地域の復興への貢献、国内避難民・国外難民による帰還の支援・促進、社会的改革プログラムや訓練プログラムの実施の支援、人々の能力開発およびマイクロ・ファイナンスプログラムの構築、社会的動員プログラムの実施。

市場の監視、地域開発計画の実施への協力」のように定義される。

    • 投資、開発への資金投入、資源配分の基礎は各段階の優先順位に基づいてなされる。

2030年におけるシリアの将来的ビジョン

本プログラムは、高度な経済成長をもたらす競争的優位性の獲得や、パフォーマンスの持続性・効率性を保証する効果的な制度的資本の獲得を実現するために必要な土台の構築に資する長期的なビジョンを設定した。それは様式の変化を促すことに加え、職務に関連する新たな価値観や社会的責任の文化、社会で活動するアクター同士の信頼、そして市場取引や市場競争に代表される社会的資本を生成することにもつながる。さらにそれは開発の経路を構築し、自由な活動空間を提供し、この機会を世間に紹介することを助ける。加えてそれは国民経済の方向性の管理、民間部門が投資を控えがちである重要なプロジェクトへの投資、

取引の実施に必要な法律の制定、確実性の提供、競争を行うためのルールの制定、国内外におけるビジネスや民間投資を可能にするための環境の提供、独占・搾取といった現象への歯止め、市場アクターが社会的責任の枠組みのなかで行動することの明確化といった手段を経て、長期的な視点から経済活動を強化することを目的とする。またこのビジョンは、それ自身達成にあたって多くの課題に直面するであろうとの認識のもとで策定されている。これらの課題の多くは通常の開発プロセスの産物であるが、その一部には、その全期間を通して戦略的計画を欠いた危機を通じて重篤化したもの、あるいは戦争の余波や影響によって生じたものも含まれる。

シリア経済の現状、あるいは現行の課題・機会の分析を起点としつつ、文明のゆりかごであり、安定、寛容、共存の国家であるシリアのための全体的なビジョンが設定された。

それ自身に依拠する現代的かつ繁栄した社会、本来のアイデンティティ・文化を保護する社会、その他の文化に対して開かれた社会、民主主義と人権の原則が根付いた社会、国民が経済的幸福や際立った健康的・教育的状況を享受できる社会、持続可能な開発や社会正義にかかわる任務にコミットする社会、共有経済の発展や多様な経済に依拠する社会、世界経済に統合された社会、高度な生産力と高い競争力に特徴づけられた社会、法の支配・透明性・資源管理の効率化を取り入れた先進的な制度的枠組みを採用しつつ、成長にあたっての基本的な源として「知識」に依拠する社会…

続いて、本プログラムの各軸に対する戦略的かつ段階的なビジョン・目標の設定がなされた。それらは相互に統合された全体的ビジョンに基づくものであり、次のように定義される。

(1)国民対話と政治的多元主義の軸:国民が調和と寛容を享受する統一された国家。彼らはそこで彼ら自身の統一された国民的アイデンティティを保持しながら、国家を組織し、その諸問題を管理する手段を創造・発展させるため意志、欲望、能力を有している。またそれは現行の諸問題を効率的に管理・開発し、人類の経験がこれまで到達したもの、あるいは国家固有の経験的意識を活用しながら、国家の持続可能な成長と繁栄を保証するような手段によってなされる。

この軸は以下に示される戦略的目標の実現の達成を目指す。和解の履行、避難民の帰還・定住、対話の価値の定植、市民・市民権にかかわる文化の強化、社会的連帯および共存、参加および共同管理にかかわる社会的ガバナンス様式の普及、結束された民主主義社会の構築、実際的な地域的・国際的な役割の履行。

(2)制度改革と公平性促進の軸:効率性をもち、透明性、公平性、柔軟性、敏速性によって彩られた実効力を有し、説明責任、社会への参加の促進、持続可能な開発の実現などにコミットする政府機関の構築。

この軸は以下に示される戦略的目標の実現の達成を目指す。政府系機関・サービスの効率性の強化・向上、人的資源の質向上、行政・財政面における地方分権化の確立、権力分立および法の支配の原則の強化、独立した公正な司法および効果的な監督機構の設置、法律の柔軟性の保証、権利と自由の保護。

(3)成長と発展の軸:持続可能な高い成長率・雇用率を実現し、適切な収入を確保することによって、包括的でバランスの取れた発展を支援する先進的経済。それは、社会や各部門に属する全ての集団を含む広範な参加型枠組みのなかで社会正義を実現するものであり、技術・知識の発展とともに環境の持続可能性を促進するような多様な生産基盤に依拠している。またそれは公正かつ触媒的な労働環境によって保護されている。

この軸は以下に示される戦略的目標の実現の達成を目指す。持続可能な成長率の達成、スタグフレーションとの闘い、公平な分配の実現、食料安全保障の実現および貧困との闘い、地理的開発状況の改善、先端技術および知識に依拠した開発の実現、ディーセント・ワーク基準の達成、自国への依存および国外への開放性。

この軸の戦略的目標(目的)は以下に焦点を当てる。

    • 利用可能な国内および国外のリソースを高い効率性をもって活用することによる、包括的かつ急速な成長の実現。
    • 投資、貯蓄、資金調達を促進し、対象となるグループや部門を支援することを目的とした、透明かつ効率的、安定的、持続可能な財政。
    • 効率的かつ高度な金融インフラにもとづいた、経済成長および恒常的な雇用を支える安定的な金融・通貨システムの構築。
    • 地元の生産を促進し、競争への参画を可能にする対外貿易に関連して世界に開かれた経済。
    • 雇用率・エンパワーメント率やディーセント・ワーク基準の向上に貢献する効率的な労働市場の創出。
    • 高い生産性や競争力、国民経済への効果的な貢献をともなった高度な農業。
    • 経済成長の主要な動因となる、国内および域内で競争力を持つシリア産業。
    • シリアの包括的な復興に参画し、経済的・社会的発展に貢献し、シリアの文明的なイメージを向上させる戦略的観光産業。
    • 安定性および競争力をもち、独占が存在せず、消費者と生産者の権利を同時に保障し、高の基本的な製品・サービスを最高の品質かつ最適な価格で提供する、組織化された効率的な国内取引市場。
    • 開発の統合・包括性を実現するために地元および地域内のエネルギーを活用することによる、バランスの取れた地元・地域開発の実現。これは地元社会による積極的な参加を得たうえでなされ、環境資源を保全しその持続可能性を保つことにも力点を置く。
    • 世界に向けた開放、相互協力の原則および利益の実現に基づいた国際協力関係の構築。これらはシリアの地域的・国際的役割を強化するための協力機会の理想的な活用にならび、主権、独立、領土保全を規定する国際法の原則に基づいて、持続可能な国家開発の実現への貢献を確保するものである。

(4)インフラおよびサービスの開発と近代化の軸:現代性を備え、地域内の資源・能力を効率的に活用することで環境の持続可能性を強化し、再生可能エネルギーに投資する高度なインフラの開発。

この軸は以下に示される戦略的目標の実現の達成を目指す。国内避難民や難民が帰還するうえでの生活手段の提供、地域計画の原則に関連する新たな視点に基づいたインフラの再構築、投資を誘致するインフラ環境、適切な居住環境、利用可能な資源および再生可能エネルギーの最適利用、国内における石油、ガス、石油派生物のニーズの充足、エネルギー利用の効率性の向上、消費の合理化。

この軸の戦略的目標(目的)は以下に焦点を当てる。

    • 国内市場における最大多数のニーズを満たし、輸入負担を軽減し、シリア経済の付加価値を高め、利用効率の観点から石油派生物および電力の需要・供給バランスを維持するための、エネルギー安全保障の実現。
    • 国家開発の神経および地理的構成要素どうしの連結を作り出し、東西南北に位置する国々との連絡の結び目としてシリアの位置を活用し、陸・空・海路を含む輸送手段の統合を実現し、安全性と持続可能性の基準を維持する、高度かつ持続可能な輸送システムの構築。
    • 競争力を向上させ、効率性・生産性を高め、高品質かつリーズナブルな価格で各個人・機関のニーズを満たすことを目的とする、情報通信技術の活用。
    • 国民内の各集団が置かれている多様な状況を考慮しつつ尊厳ある生活条件を提供する、適切な居住環境

(5)社会的・人的開発の軸:人口統計上のバランスを持ち、社会的に団結しており、経済的および知的に強化された社会。そこで暮らす人々は参加主義および社会正義、また効果的かつ効率的な社会保障システムの上に打ち建てられた適切な水準の健康・教育を享受する。またそこでは、開発の持続性を担保するための各自の役割が相互に補完し合う。

この軸は以下に示される戦略的目標の実現の達成を目指す。人口統計上のバランスを有した社会の構築、健康的な生活の提供、社会による開発への知的かつ効率的な参加、完全な社会保障システムの構築、児童を保護・育成するための安全な養育環境の構築、全ての部門およびグループによる開発プロセスへの完全・効果的かつ影響力のある参画の保証。

この軸の戦略的目標(目的)は以下に焦点を当てる。

―その真正のアイデンティティ・文化を保ち、他の文化に開かれ、持続可能な開発および繁栄のための基本的な源泉として知識を活用する社会の発展に寄与する、現代的かつ更新可能な教育・研究・文化システムの構築

―団結した家族を基礎とするシリア社会の構築。そこで暮らす人々は有能かつ生産的であり、尊厳ある生活条件、効率的な社会保障ネットワークを享受している。またそこには活動的かつ意識的な市民部門が存在し、参加主義の基盤と社会正義に基づいた包括的な開発を達成するために各自の役割が相互に補完し合う。

― 住民が健康に関する際立った水準・品質を享受しながら、各県の間にバランスよく分布しているような、人口統計上のバランスを有した社会

指導方針

本プログラムは戦略的なビジョン・目標に従って、相互に作用する一連の指導方針を採用した。それらはプログラム中の全ての段階に対応しており、以下のように示される。

(1)国民対話と政治的多元主義の軸は、「国民対話と国民和解の促進、世論の尊重」、「政治的、経済的、社会的、文化的プログラムへの透明性の付与」、「全ての社会的集団、市民組織、そして社会に対し表現し、参加し、責任の精神を確立することを可能にする枠組みの構築」、「国内および国外への避難民にかかわる問題の処理」、「殉教者たち、負傷者たち、欺かれた人々の家族のケア」、「戦闘行為に関与し、あるいは武装集団を支援した人々にかかわる問題の解決」に焦点を置く。

(2)制度改革と公平性促進の軸は、「公務機構の再編成およびその法的・組織的環境の改善、最新の管理方法論の適用」、「政府系サービスの質・量の改善」、「上級および中級の幹部を選抜する上での基準の改善」、「労働者のリハビリ・訓練」、「有能な人材の誘致」、「司法・監督業務が置かれる法的・組織的環境の開発、および彼らが業務遂行上必要とするインフラや人材の提供」、「司法機関および監督機関の倫理規則の改善」、「腐敗対策および透明性にかかわるメカニズムの開発・強化」

(3)成長と発展の軸には、ある特定の段階で開始あるいは終了するもの、あるいは全ての段階において有効とされるものといった複数の政策が含まれる。またこれらの政策には次のものが含まれる。「生産・供給インプット、支援機関、対外貿易、投資環境、金融・財政・租税・関税システム、財政的アクセス、公的支出、徴税のガバナンス」、「地方開発、労働市場、マーケティング、相場付け、市場・輸出管理、国際収支統計のフレームワーク、国際協力の軸の実現を目的とした、生産拠点およびその支援機関、必要なサービスインフラの開発」、「システムおよびデータベースの構築」。

マクロ経済レベルでは、以下に示す問題に焦点があてられた。

成長、生産、投資の分野:「質的要因による貢献度合いの増加に依拠しつつ、地理的なバランスを保ちながらより包括的であり、急速かつ持続可能で運用可能な経済成長」を達成するための経済成長の回復と加速、民間部門の労働環境の改善および成長におけるその役割や社会的責任の強化、研究開発への支出率の増加、、知的コンテンツの深化、先端技術の活用、中堅・ハイテク産業への投資の拡大、全ての部門が必要とするPC機器製造の支援、中規模・小規模プロジェクトの発展、資本蓄積率の向上、復興に向けたエネルギーの結集。

    • 公的財政政策:「国民の基本的なニーズを提供、公的債務(特に国内債務)の管理、支援システム・給与・賃金の適正化、完全な国有財産管理システムの設置、税金の公平性を実現する完全な租税システムの設置、支出効率の向上」
    • 金融政策・金融部門:「流動性の管理、法定通貨の購買力の向上、安定したインフレ率の達成、信用枠の管理、金融市場の発展・改革、金融機能の向上、銀行・保険サービスの改善、 電子決済」。
    • 対外貿易の分野:「国内製品を保護するためのメカニズムの開発、フリーゾーンの推進、輸出における商品・対象地域の多様化、輸出手続きの簡素化・簡易化、マーケティングおよびプロモーション活動、国外からの投資の誘致、輸送・物流システムの効率性向上」。
    • 雇用・労働市場政策の分野:「労働・雇用市場の組織化、組織化されていない業務を組織化するための促進性の開発、起業支援システムの開発、労働市場の需要に従って特に失業者向けに起業スキルや熟練労働力を強化すること、専門家組合・労働者組合の業務の促進、研修および訓練、労働者の生産性・効率性の向上」。

経済部門に関しては、各政策は「法的・組織的・制度的環境の開発、投資の促進、生産の促進、競争力の向上、製造工程が必要とする要件の確保、対外・対内向けマーケティングおよびプロモーション、国内外から投資の誘致、提携や協力の締結、利用可能なリソースの最適な活用、幹部層への研修・訓練・教育、最新技術の伝達・活用・流通」に焦点をあてた。

バランスの取れた開発に関しては、各政策は「社会福祉およびインフラの分野における地理的なバランス・公平性を保った公共支出、土地利用の改善・運用・管理、乱立住宅の問題に対処するためのメカニズムの開発、各行政区の効率性向上およびそれらへの必要な権限の付与、地域開発における市民社会の役割の強化、災害に向けた完全な環境・管理体制へのコミット、固形廃棄物を管理するための先端手法の採用」に焦点をあてた。

国際協力に関しては、各政策は「国際協力の様式の強化・多様化、国際舞台におけるシリアの権利・利益の保護、開発プロセスが必要とする財政的・専門的・技術的支援の提供」に焦点をあてた。

(4)インフラおよびサービスの開発と近代化の軸において、各政策はインフラシステム全般の機能回復に焦点を当てた。エネルギー部門では、各政策は「同部門の法的環境の開発、生産・備蓄量の増加、エネルギーキャリア価格の段階的かつ順当な自由化、精製業務の促進、損害を受けた地域におけるエネルギー設備・施設の機能回復、開発プロセスのための鉱物資源の最適な活用、研修および訓練」を取り扱う。運輸部門では、各政策は「輸送システムの開発・機能回復、その生産能力の強化、その準備態勢の維持、その生産部門への接続、清潔な輸送手段の使用」を取り扱う。情報通信部門では、各政策は「ソフトウェア・情報サービスの分野で開発を行う企業を誘致するための業務環境・法的環境の整備、政府系サービスの効能に対する信頼構築、電子政府プロジェクトの促進、通信・情報ネットワークの開発、電子決済サービスの普及、国際的な通信契約の場としてのシリアの地位の強化、通信・情報の分野における専門的訓練の開発」を取り扱う。住宅部門に関しては、各政策は「住宅情報銀行およびそのサービスの開発、同部門で活動する当事者(公的なもの、私的なもの、公私協同のもの、建築業者組合、請負業者組合)に役割の強化・開発、建物に関するグリーンビルディング概念の促進、最適かつ迅速な建設技術を用いて郊外居住区を建設することを専門とする請負会社の設立、財産関連の法律の開発、建築と設計に関する組織的計画の最終形態の設定、技術的な設備・機械・機材の提供、携わる人的資源の効率性向上」を取り扱う。上水・下水部門では、各政策は「法的な規制システム・法律の開発、水資源活用の効率性改善、完全なシステムへのアクセス、コスト回収の原則の採用、非従来型の水資源の活用、労働者の能力の強化」を取り扱う。

5)社会的・人的開発の軸に関して、教育・文化形成に関する各政策は、教育問題、様々な段階における教育構造(カリキュラム、内容、法的規制環境)の再検討、再教育、訓練、教育と労働市場の結びつきの強化、学術研究の奨励およびそれを国民経済の需要に結びつけること、学校内でのスポーツと健康、カリキュラム開発における公的部門・民間部門の協力、啓蒙された宗教的啓発・言説の提供、そして社会的・文化的に密着したシリア人家庭を構築するためのカリキュラムに焦点をあてた。社会保障政策においては、戦争の影響をもっとも受けたグループの統合、国民和解の枠組みにおける帰還民の祖国への統合といった問題のほか、難民および国内避難民の帰還に関連する問題、非政府系の団体・機関が活動しそれらが相互に補完し合うための社会保障制度に向けた法的環境の整備、社会保障プログラムの対象範囲の拡大、社会セーフティネットおよび金銭的・非金銭的援助プログラムの強化、民間部門がもつ社会的責任の強化、各県にある農村開発センターおよび農村産業ユニットの開発上の役割を強化し、そのサービスの質を向上させること、インキュベーションおよび起業の奨励、幹部人材の効率性・適切性の向上に焦点がおかれた。住民・健康の分野では、各政策は、法的規制環境の整備、住民の健康にかかわる啓発・啓蒙、医療機器、医薬品・保健サービスの提供、医薬品製造の奨励・国内生産率の向上・輸出の増大、経済成長と人口増加の両立を実現する仕組みづくり、人口に対する教育カバー構造の改善、健康保険および社会保障の実現の継続、人材の供給、幹部人材の帰国の奨励を取り扱った。

資金調達と資源配分の基礎

戦争期間の数年間にもたらされた被害の甚大さを考慮したうえで、設定された目標にのっとって持続可能な開発への到達を可能にするための最小限の推定値に基づくと、国家プログラムを通じて持続可能な経済成長を達成するためには、約86兆シリア・ポンドにおよぶ巨額の資金を準備する必要がある。経費の内訳は以下のとおりである:約54兆シリア・ポンドが政府系支出(うち約44兆シリア・ポンドが経常支出、約10兆シリア・ポンドは公的投資支出)であり、残りの約32兆シリア・ポンドが民間投資支出。必要総額の32%は国民貯蓄からまかなわれ、残りの額は中央銀行からの借入、国債発行、国庫短期証券を通じた国内調達のほか、外国融資、必要総額の5%に相当する外国投資を通じた対外調達によってまかなわれる。資金調達源は、総必要額の31%にあたる26兆シリア・ポンド以上の経常収入と、総必要額の6%にあたる約6兆ポンドの投資収入に分配される。一方、民間部門からの投資額は必要総額の38%に相当する32兆シリア・ポンド以上にのぼり、そのうち外国からの直接投資額は約4兆シリア・ポンドである。したがって、必要総額のうちの残り(借入対象)は、必要総額の26%に相当する約22兆シリア・ポンドとなり、その調達源は国内資金源(中央銀行、債券など)と外国融資に分けられる。

プログラムの実施枠組み

シリア国家開発プログラムから、12個からなる枠組みプログラムのグループが生まれた。これらは「戦略的目標との適合性、優先順位・相対的な重要性への考慮、さまざまな分野で行われている政府系の取り組みへの考慮、関連機関による最大限の参加の保証、実施にあたっての論理性および時間的順序への考慮、実施状況をフォローアップし監視と評価のプロセスを円滑化するために必要な指標の設定」の必要性という観点から設置された。各枠組みプログラムは、総数90 の主要プログラムを有する基礎的実施プログラムのグループへと枝分かれする。さらにここからサブ・プログラム、プロジェクト、実施手順からなるグループへと枝分かれすることとなる。各プロジェクトのスケジュール設定あるいは資金源決定に関しては関連する省庁が担当する。またプログラムおよびそれに関連するプロジェクトの見直しは、実施状況フォローアップ報告書の結果に基づいて定期的に実施される。

    • 枠組みプログラム:法治体制と制度構築。以下の主要なプログラムを含む。市民権および法治体制の強化プログラム、透明性・汚職防止プログラム、組織的犯罪防止プログラム、シリア立法制度開発プログラム、司法改革プログラム、行政改革プログラム、電子政府・デジタル移行プログラム、公共政策・計画策定・統計システム開発プログラム、国有資産の管理・投資プログラム、メディア部門再構築プログラム、地方分権化国家計画。
    • 枠組みプログラム:インフラおよびサービスの復旧と開発。以下の主要なプログラムを含む。被害を受けた地域の復興のための計画策定プログラム、石油・ガス・鉱物天然資源管理プログラム、電力システム開発・拡張プログラム、総合交通システム開発・拡張プログラム、通信・情報にかかわるネットワーク・システムの開発・拡張プログラム、都市開発プログラム。
    • 枠組みプログラム:天然資源管理と環境保全。以下の主要なプログラムを含む。天然資源占有および生物多様性保護プログラム、水資源持続性維持プログラム、固形廃棄物管理プログラム、砂漠化・環境汚染対策プログラム、各県における災害管理体制の開発プログラム。
    • 枠組みプログラム:シリア経済の構造転換以下の主要なプログラムを含む。経済活動再開のための緊急プログラム、金融部門開発・安定プログラム、公共経済部門改革プログラム、投資促進・ビジネス環境改善プログラム、小規模・中規模プロジェクト支援プログラム、貿易効率化プログラム、国内市場の組織・指導プログラム、経済特別区プログラム、知的財産権・産業財産権保護プログラム、国家農業開発プログラム、国家産業上昇プログラム、国家観光開発プログラム、情報産業支援プログラム、電子ビジネス環境強化プログラム、官民協力プログラム、国家品質管理プログラム、国際協力における労働システムの開発プログラム。
    • 枠組みプログラム:公共財政改革。以下の主要なプログラムを含む。国家予算開発プログラム、公的収入改善プログラム、公的支出効率改善プログラム、税関システム開発プログラム、公的債務管理プログラム、支援開発プログラム。
    • 枠組みプログラム:インフラ管理・物価安定。以下の主要なプログラムを含む。マネーサプライ・流動性管理プログラム、為替レート管理プログラム。
    • 枠組みプログラム:バランスのとれた開発。以下の主要なプログラムを含む。多面的貧困対策特化プログラム、人口発展プログラム、国家地域計画枠組みプログラム、地域・地元開発計画プログラム、包括的成長のための雇用プログラム、行政単位効率向上プログラム、農村部統合開発プログラム、食糧安全保障プログラム。
    • 枠組みプログラム:社会的な保障・責任。以下の主要なプログラムを含む。国民和解プログラム、負傷者および殉教者の家族の保護プログラム、社会セーフティネット開発プログラム、社会保障制度開発プログラム、 国家社会扶助プログラム、国家社会エンパワーメントプログラム、心理的・社会的支援プログラム、民間部門の社会的責任の強化プログラム。
    • 枠組みプログラム:国内NGOの役割開発。以下の主要なプログラムを含む。NGOの活動のための法的・規制枠組み開発、NGOの開発へ参加促進、ボランティア団体のイニシアチブへの支援、NGO能力の構築・開発。
    • 枠組みプログラム:教育・発明・学術研究システム。以下の主要なプログラムを含む。幼少期開発プログラム、学校教育発展プログラム、大学教育・学術研究発展プログラム、職業教育・技術教育発展プログラム、労働市場および新たな専門分野・専門職に教育を結びけるためのプログラム、スポーツ・青少年プログラム。
    • 枠組みプログラム:文化形成。以下の主要なプログラムを含む。戦後期文化のための国家戦略、物的遺産の保存・ファイリングプログラム、非物的遺産の保存・ファイリングプログラム、シリアの文化的生産物開発プログラム、才能の発掘、育成・創造性奨励プログラム、シリアの農村部における文化開発プログラム、文化インフ​​ラ復興プログラム、メディア言説開発プログラム、合理的な宗教的言説の開発プログラム。
    • 枠組みプログラム:ヘルスケア。以下の主要なプログラムを含む。一次・二次・三次的医療ケアサービスのカバープログラム、医療インフラの復旧・開発、感染性疾患治療プログラム、慢性疾患治療プログラム、遺伝性疾患治療プログラム、薬剤安全保障プログラム、健康保険普及プログラム、保健分野における人材育成プログラム。

実施・監視・評価

実行プロジェクトの適切な実施を保証することを目的とした実施・監視・評価のスケジュールは、毎年さまざまな主体向けに投資計画を作成する際に、適切な詳細に基づいて設定される。またこれは国家の投資計画(国家の一般予算:第3章)のほか、その他の経常支出に必要な要件、プログラム・プロジェクトの内容と適合するかたちで設定される。一方で、中期的(3年ごと)なプログラム・プロジェクトの実施計画の開発については、これらの実施計画が年間投資計画を作成する際に依拠される主要な枠組みを構成するかたちとなるよう、のちに(現時点で詳細が決定していない)実施される予定である。同様に、最適なかたちでのプログラムの実施に必要な柔軟性・効率性を備えた監視・評価システム(発展情報システム)の設計についても順次フォローアップされる。

(第2部に続く)