多角的アプローチを通じて解明するシリア紛争の影響:人々の意識変化に関する量的研究、質的研究

日本中東学会第35回年次大会企画セッション4

2019年5月12日12:40-14:10
秋田大学手形キャンパス

要旨

2011年に発生したシリア紛争は、甚大な人的・物的被害をもたらした。死者総数は50万人弱にのぼると推計され、UNHCRによると、560万人以上(2018年11月)が難民として国外に流出、またUNOCHAによると、約600万人(2016年1月)が国内避難民(IDPs)となり、支援を必要としている。「今世紀最悪の人道危機」と称された同紛争最大の被害者とも言える難民・避難民については、イスラーム国の台頭と前後して、欧州への移民・難民の流入への注目が集まるなか、アカデミアにおいても、種々の調査を通じて、実態把握がめざされるようになった。本企画セッションは、こうした試みの一環として、難民の受入先である欧州や周辺アラブ諸国、そしてシリア本国で報告者が実施してきた世論調査や事例調査をもとに、計量学に代表される量的アプローチと地域研究の王道である質的(叙述型)アプローチを駆使して、難民・避難民を含むシリアの人々の意識に紛争がどのような影響を与えたのかを解明する。

司会

  • 髙岡豊(中東調査会)

報告者

  • 青山弘之(東京外国語大学)
  • 浜中新吾(龍谷大学)
  • 錦田愛子(慶應義塾大学)

黙殺されてきたシリア内戦最大の被害者たちは何を欲しているか:IDPs世論調査結果の地域研究的解読(青山弘之)

本報告では、2018年にシリア6県(ダマスカス県、ダマスカス郊外県、アレッポ県、ヒムス県、ラタキア県、ハサカ県)で暮らす国内避難民(IDPs)を対処とした世論調査の結果を地域研究の手法をもって分析(質的分析)し、予定調和や勧善懲悪によって作り出される難民・避難民・移民のステレオタイプと、彼らの実態の乖離を明らかにする。

シリア政府支配下住民と国内避難民の国際関係認識:政治的認知地図によるアプローチ(浜中新吾)

本報告では、2017年実施のシリア世論調査と2018年実施のシリア避難民調査の結果を用いて人々の政治意識の違いにアプローチする。シリア政府支配地域下の住民と避難民となった住民との間には社会階層上の相違があると思われ、そのことが彼らの対外認識における相違と相関していることだろう。この関係に対して国際政治理論を通じた量的分析を試みる。

帰還をめぐる思い:シリア難民の移動に対する意識の比較分析(錦田愛子)

本報告では、シリア紛争による難民および避難民が帰還をめぐり抱く意識について、事例と世論調査の分析を通してその一端を明らかにすることを試みる。シリアの周辺国であるヨルダンやレバノンと、移住先のドイツなどでは移動に対して頂く意識にどのような差があるのか、出身地域や居住年数、世代、政治的傾向等による相違について検討を加える。