中東諸国民の国際秩序観:政治的認知地図を通じたアプローチ

平成29年度龍谷大学社会科学研究所研究プロジェクト

研究概要

「民主化」と思われていた「アラブの春」が、社会秩序を揺るがし大規模な紛争を引き起こした2010年代のアラブ諸国の実情において、紛争当事国の民衆が地域の国際秩序をどのように見ているのかを把握することは、学問的にも国際情勢理解の点からも重要である。

本研究は紛争当事国は以下2点を世論調査の実施とその結果分析を通じて解明することをめざす。(1)民衆がどのように中東地域の国際政治を認識し、いかなる勢力均衡を求めているのか。(2)民衆が各国の政党・政治勢力諸派をどのように認識しているのか。すなわち本研究は「中東諸国民の政治的認知地図の解明と動態の把握」をその目的とし、これにより国際政治とイスラーム政治運動を視覚化し、構造と動態の明解な記述と解釈をめざす。

①研究の学術的背景

2011年に北アフリカから東アラブ地域を経てアラビア半島に未曾有の政治変動が拡散した。大規模な大衆運動とそれによって引き起こされた政治体制の動揺と体制崩壊は、「アラブの春」と呼ばれている。「民主化」と思われていた「アラブの春」が、社会秩序を揺るがし大規模な紛争を引き起した2010年代のアラブ諸国の実情において、紛争当事国の民衆が地域の国際秩序をどのように見ているのかを把握することは、学問的にも国際情勢理解の点からも重要である。これまで中東政治の分析においては、当該地域がおおむね権威主義的な統治下にあるため、世論調査は不適切と見られてきた。しかしながら、青山弘之(東京外国語大学)の現地調査によって、シリアの政権が政策立案に先立って世論調査を含む多様な手法で情報収集を行っていることが明らかになっている。ゆえに、世論調査と調査データの計量分析は、地域の政治主体の視点に沿った現実的な分析を可能にする手段となっている。

②研究期間内に何をどこまで明らかにするのか

以上の背景から、本研究は(1)紛争当事国の民衆がどのように中東地域の国際政治を認識しいかなる勢力均衡を求めているのか、および(2)彼らが各国の政党・政治勢力諸派をどのように認識しているのかを世論調査で把握する。すなわち「中東諸国民の政治的認知地図の解明と動態の把握」を行う。政治的認知地図とは青山・浜中 (2009)で最初に提起した分析概念で、地域の安定化への中東諸国の貢献度に対する国民の評価の全体像を意味し、世論調査データの計量分析(因子分析およびクラスタ分析)によって国際政治を視覚化する。政治的認知地図は国際政治だけでなく、国内外で活動する政党や政治運動諸派に対しても適応可能であるため、これを併せて行う。濱中・青山・髙岡がこれまでシリア、エジプト、パレスチナ、レバノン、イスラエルで実施した世論調査データを元に、本研究では政治的認知地図の作成と分析を通じて(1)中東地域システム構造とプロセスを政治意識レベルで解明し、(2)政治運動間の関係性を視覚化できる。これにより(1)自国と友好国、敵対国家との位置関係・近接性・同盟関係を視覚的に把握するとともに、(2)ハマースやヒズブッラーなど体制内活動をする政党・政治組織とヌスラ戦線などのジハード主義運動に対する認知上の関係を視覚化し、解釈を試みる。

③本研究の学術的な特色・独創的な点および予想される結果と意義

この研究計画を遂行する組織は、比較政治理論および国際政治理論に通じ、計量分析手法に明るい濱中と、アラビア語に堪能で臨地調査経験と現地の人脈が豊富な地域研究者である青山・髙岡の3人で構成されている。シリア/イスラエル、レバノン/イスラエルという敵対関係にある国で同じ内容の質問紙調査を実施することは、それ自体が史上初の学術活動である。当該国の研究者はお互いに相手の調査を行うことが困難であるが、日本の研究者であれば、双方に等しくアクセス可能である。

④本研究が社会科学研究所にふさわしい研究であると判断される理由

社会科学研究所が「社会科学における各分野の枠にとらわれず、様々な分野の研究者との共同研究を推進することで、新たな社会科学の創造と発展に寄与することを目的」としている。本研究は世論調査を基軸として比較政治学・国際政治学と中東地域研究がクロスオーバーする点に新たな社会科学研究を打ち立てようとする意欲的な試みである。

参考文献:青山弘之・浜中新吾(2009)「シリア国民の政治的認知地図」『現代の中東』46:2-21.

研究構成員

研究総括者

研究分担者

  • 青山弘之(東京外国語大学総合国際学研究院教授)
  • 髙岡豊(財団法人中東調査会上席研究員)

所属は2017年4月現在

研究成果

研究会合

第1回研究会合

  • 開催日:2017年10月27日
  • 会場:龍谷大学
  • 協議事項:来年度の予算編成、研究成果報告の場所、研究論文集の発行について
  • 報告事項:研究メンバーによる研究報告機会、関連研究会での活動(情報共有)