制憲委員会(憲法委員会)

CMEPS-J Report No. 50(2019年11月3日作成、2019年11月8日修正)

青山弘之・木戸皓平

目次

概説

 

制憲委員会(اللجنة الدستورية)は、2018年1月30日にロシアの避暑地ソチで開催されたシリア国民対話大会で設置が合意された組織。日本語では「制憲委員会」ではなく、「憲法委員会」と訳出されるのが一般的。

シリア国民対話大会は、シリア社会のさまざまな階層を代表する1,292人、国外の反体制派101人、外国からの招待者34人、国連からの招待者19人、合計1,446人が出席し、制憲委員会の設置と合わせて、「シリアの主権、独立、平和、統合の尊重」、「諸外国の内政不干渉」、「国際社会におけるシリアの地位の回復」、「選挙を通じた民主的な方法を通じたシリアの未来の確定」、「政治的多元主義、市民の平等の原則に基づき、宗教的、人種的、民族的な帰属を超えた非宗派主義的民主国家としてのシリア(の樹立)」を確認する閉幕声明を採択した。

制憲委員会は、国連安保理決議第2254号、米国とロシアを共同議長国として国連が主催してきた和平プロセスのジュネーブ会議、そしてロシア、トルコ、イランを保障国とする停戦プロセスのアスタナ会議の決定に基づく、政治移行と紛争和解を推し進めるうえでの主軸とみなされている。この政治移行において、シリア政府と反体制派によって構成される移行期統治機関の設置、新憲法制定、自由な選挙の実施を経た紛争解決がめざされていたからである。この点を踏まえると、「憲法委員会」ではなく、「制憲委員会」と訳出されるのがより適切と考えられる。なお、シリア政府はこの委員会において、新憲法の起草を行う前に、現行憲法(2012年施行)の是非を評価すべきだと主張しており、こうしたスタンスを踏まえた場合は「憲法委員会」と訳出することがふさわしい。

2019年9月23日に、アントニオ・グテーレス事務総長によって人選の完了と設置が宣言され、10月30日にスイスのジュネーブにある国連本部で開会会合が開催された。

メンバーは150人からなり、うち50人はシリア政府が、50人はサウジアラビアの首都リヤドに拠点を持つ反体制派の交渉委員会が、そして50人はゲイル・ペデルセン・シリア問題担当国連特別代表が人選した。

ペデルセン特別代表が選出した50人は市民社会代表と呼ばれ、そのなかには、政権寄りのメンバー、反体制派寄りのメンバー、そしていずれにも属さないメンバーが含まれている。

シリア国民対話大会での設置合意からメンバー確定、そして開催までに1年半以上の時間を要した背景には、メンバー人選をめぐる駆け引きがあった。とりわけ、ペデルセン特別代表が人選した市民社会代表をめぐって、シリア政府は一部候補を「反体制派寄り」として拒み、発足が遅れたとされている。

シリア政府、反体制派、市民社会の代表の氏名は、2019年9月23日から24日にかけて、各種メディアによって報じられた。その詳細は、本報告書の「シリア政府代表」、「反体制派代表」、「市民社会代表」に示した通りである。

だが、10月30日の開会に際して、国連を通じて正式に発表された代表はこれとは若干異なっていた。その詳細については、別稿(CMEPS-J No. 51)において示すこととしたい。

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